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2010年12月05日

北東アジア地域協力における領域別・重要分野別の連携強化の推進

2010年11月27日金沢における「環日本海協力・共生・持続的可能な発展国際会議」での発言要旨

         北東アジア地域協力における領域別・重要分野別の連携強化の推進
             ――6つの領域と5つの重要分野での連携強化

            黒龍江省社会科学院北東アジア研究所研究員  だ志剛

 20世紀80年代において日中の研究者が北東アジア地域概念を提唱して以来、30年余りが立つ。北東アジアという地理的な概念、国家観念、外交意識が混じりあっているこの地域は、そのエリアを広義に捉えるか狭義に捉えるかは定まっていないが、世界的な影響力を持つ国と閉鎖的な小国が並存する中での地域の発展と変化が再び世界的な注目を浴びつつある。
 2008年の米国発のリーマンショックによって拡大された世界的金融危機は、蔓延の時間の長さ、波及範囲の広さ、破壊力の大きさにおいて前代未聞、百年に一度と言われる。危機が先進国、新興国及び途上国にそれぞれショックをもたらしたが、そのことが逆に北東アジア地域の活力と潜在力の高さを示すことになった。特に、ポスト金融危機の時期に入って、欧米及び日本の回復の相対遅れや国際的政治影響力の低下が目立つ中で、北東アジア地域全体の影響力が日増しに高まり、多国間の協調関係の強化や、低炭素・環境保全に関する協力も加速している。そのなかで、中国の率先的な回復の早さが目立っている。これらの動きは北東アジア地域の二国間協力の強化に重要なプラットフォームを提供するだけではなく、地域内の多国間協力、特に将来の持続可能な発展に新たな要因と活力をもたらしている。このGDP世界上位15位にランクインした中日ロ韓など重要な国々を含む北東アジア地域協力が資源エネルギー、省エネ・環境保全など多国間協力の先進的なモデル地域となり、今後の30年における世界経済の牽引役になる可能性が高まっている。
今回の危機が、「危機」を齎したと同時に、「機」(機会)をも生みだし、地域協力への教訓を与えるとともに、これまで例のない機会を提供している。つまり、域内における国々の心理的な距離を縮め、地域協力によって危機から脱却し、共通の回復を図り、ウィン・ウィンという相互利益関係を構築することが時代の潮流となっているのである。
 一方、国際政治・外交・経済において新たな変化が生まれ、北東アジア地域協力は重大なチャレンジに直面している。域内の領土問題を巡って、対立と緊張が再燃し、東アジア共同体概念が弱体化し、環太平洋パートーナーシップ協定(TPP)の推進がみられるなど、域内で協力のシステムとその基盤が揺らぐならば、より広範囲な協力関係の中に北東アジア地域協力が同化・吸収されるというリスクにも直面している。北東アジア地域協力を一日も早く安定的なものにし、地域としての地位向上と制度的な協調をはかるものに昇華させる必要がある。地域の連帯強化を醸成させるためには、域内における国々が努力しあい、以下の6つの領域および5つの重要分野での連携強化を実現させなければならない。

1.6つの領域での連携強化

(1)隣接する成熟した経済共同体との連携
 長期・中期・短期という三つのレベルにおいて、北東アジアの地域協力は隣接する経済共同体との連携を念頭において進めなければならない。長期的目標から見れば、北東アジア地域協力はEUと北米自由貿易区という成熟した経験を踏まえて、その高度に制度的な統一の成果を吸収する必要がある。中期的には、北東アジア地域協力は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)と連動し、その多国間の協調機能を吸収する必要がある。短期的には、北東アジア地域協力がアセアン10+3との連動して、その開放的かつ独立的方策を吸収する必要がある。
 (2)北東アジア国家間戦略の連携
 北東アジア域内の各国がそれぞれの中央・地方レベルと各分野における国家戦略を打ち出し、それら戦略の独自の推進と二国間相互依存関係を積み重ね、最終的には多国間相互依存関係への連動へと移行させなければならない。これにより、北東アジア地域協力が国と国の間の密接度を強化し、域内の内需と外需の相互依存関係を形成し、国家と地方レベルの発展戦略において小異を残しつつ大同に着き、国家間戦略が北東アジア地域戦略へと転換させることが可能となる。
(3)北東アジア地域における地方自治体間戦略の連携
 東北振興戦略(中国)、極東地域開発戦略(ロシア)など北東アジア地域における地方政府が主導する戦略間の連携が、国境地域を中心として展開する北東アジア地域協力に全方位性、重層性、多分野の発展性を与えるために極めて重要である。地方間の国際交流を強化することが、同時に政治的な干渉を弱化させ、ひいては各国家内の地域均衡的発展と地域格差の縮小にも寄与するのである。
(4)北東アジア地域における内需循環との連携
 北東アジア地域協力は、北東アジア経済圏の理念を醸成しており、「大北東アジア経済圏」の内需循環の形成は日程に上っている。北東アジア経済圏を基礎とする内向(地域内動力)的な相互発展も可能となる。域内の内需を動力とする北東アジア地域経済の繁栄とその持続的な発展は、世界的な地域協力への融合に不可欠な要素の一つである。
 (5)域内における国境都市と中央都市間の連携
 北東アジア地域協力の拠点となっている国境都市と中央都市との関係が行政間の連携の制約や縦割り行政、相互不理解などによって疎遠となっている現状を打開しなければならない。それに代えて、独自の発展をベースとした相互バックアップ、国際連動への努力が必要である。国境都市(税関或いは輸送回廊の町)と中央都市を連動をさせ、税関を接点として、中央都市と国境都市との域内連携を強化させる必要がある。
(6)域内にある各種国際会議間の連携
 北東アジア地域協力を推進する主体として、問題提起、意識喚起、意見交換、議論の場として政府・シンクタンク・民間団体などにより開催される各種の国際会議がある(日本の新潟、中国の長春・ハルピン、ロシアのウラジオストクなど)。これらの会議の構成員である政府系機関、企業家団体および研究者による有益な提言や産官学の具体的取り組みを相互に連携させ、中央政府と地方自治体に対する具体的提言を行い、実務レベルにおいて実行可能な実践を促進させる必要がある。

2.5つの重要分野での連携強化
 (1)観光分野での国境を跨る連携強化
 近年、北東アジア地域における観光が日増しに活気と活力を見せており、域内各国において最も重視される分野となっている。こうした北東アジア地域における多国間の国境を跨る観光が人・もの・情報の大移動と交流の時代をもたらし、北東アジア地域協力を深化させるための新たな突破口となるのである。
(2)物流分野での水・陸・空のパイプの連携強化
北東アジア地域における各分野での協力の中で、国際物流協力が観光に次ぎ、多国間協力体制の構築での最も有力視される分野である。北東アジア地域における物流構築の全面的な実験と試行により、物流分野での水・陸・空での太いパイプの存在は域内における多国間協力のさらなる進展を実現させるもう一つの突破口である。
(3)資源分野での供給国と消費国との連携強化
 北東アジア地域は世界中でも数少ない資源の豊かな地域である。資源の豊かなロシア・朝鮮・モンゴルと消費国である中国・日本・韓国の間に、平等、互恵及び信頼できるビジネス関係を構築する必要があり、資源の供給国と消費国間の協調システムが将来の北東アジア地域全体の競争力、地域内でのウィンウィン関係構築に極めて重要である。
(4)域内での相互投資に関する連携強化
 北東アジア地域の一体感と連帯感を増強させる鍵の一つが相互投資であり、協力関係を緊密にする新たな突破口でもある。特に地域内での経済貿易成長を直接牽引できる輸出入基地の建設、インフラ整備、交通・物流分野と民生需要など、国境地帯の税関と中央都市間を結ぶ輸送回廊の建設を急ぐ必要がある。
 (5)省エネ・環境保全分野における連携強化
 世界のなかでも優れた省エネ・環境保全技術を持ち、また率先して低炭素社会の構築とグリーン成長戦略を打ち出した日韓、環境問題を日増しに重視する姿勢を見せる中国にとっては、省エネ・環境保全分野で北東アジア地域での二国間・多国間の協力を深化させることは自国の長期利益に適合している。該当地域を省エネ・環境保全モデル地域として世界に発信する突破口にすべきである。


  


Posted by 虎ちゃん at 12:02Comments(0)論文・提言

2007年02月20日

「東北振興戦略」国策の提出及びその内容

ERINA調査研究部客員研究員 黒龍江省社会科学院経済研究所研究員  笪 志剛



               
                     地図は中国国家統計局HPにより

一、東北旧工業基地への歴史回顧

東北旧工業基地は東北地区における豊かな資源、相対完備の工業基礎、良好な社会基盤、有利な地縁優勢によって中国建国直後の第一次五カ年計画と第二次五ヵ年計画の実施によって、第二次五ヵ年計画末期まで形成した工業基地である。建設し始めの1953年からスタートして、1965年までに漸く完成された。

1、東北経済区概況

東北経済区 は遼寧省、吉林省、黒龍江省所謂東北三省、内モンゴル自治区東部の三市一盟(赤峰市、通遼市、呼倫貝爾市と興安盟)を指し、面積は125.17万平方キロメートル、人口は11,741.22万人、それぞれ全国の13.04%と9.26%を占める。該当地域には、50万人を超える大中レベルの都市が30余りあり、国境線の総長が7,500キロに達し、海岸線も2,178キロあり、水陸税関が多くて、日本海に近くて太平洋にも通じて、海陸交通の便宜を持っている。

2、地域の優位性と特徴

①自然資源が豊かであること。原油生産高が全国2/5、木材が1・2、商品食糧が1・3を占めている。②北東アジア地域の腹地に位置付ける優位性が顕著であること。南は華北、華東を繋ぎ、中国三大経済圏の中枢となる天津浜海新区と隣接する。東北はロシア、北朝鮮と隣接し、東は日本と韓国を臨んでいる。③工業基礎が豊富であること。鉄鋼の産量が全国の1・8、造船の1・3、自動車の1・4を占めている。④人材優勢も目立っていること。各種専門技術関連の人材を210万持っていて全国の10%を占めている。⑤経済基数が次第に増加であること。2005年東北三省GDPは17,140.7億元、全国同期の9.4%を占める。2006年1-9月、遼寧、吉林、黒龍江省のGDPはそれぞれ13%、13.7%、11.6%の増長を遂げた。

3、旧工業基地の形成

1953年から1965年にかけて東北旧工業基地の大規模建設の時期であった。中国の社会主義建設の開始によって、東北は独特な資源基礎、工業基礎、社会基礎、地縁基礎、思想基礎の全体優勢で工業基地の候補と選ばれた。相対的な完備の地理単位として東北地区は土地が広くて、資源が豊かで、重工業を発展させるためのエネルギーを始めすべての素材が揃う。当時、鉄の貯蔵量が全国の1・4、石油が1・2、石炭が9%、林業面積と林業覆い率が30%以上、耕地が1・5を占めた。
 日本とロシアの植民地統治の影響で、東北地区の重工業ウェイトが割合に高く、石炭、発電、鋼材、セメントなどの鉱工業が整って、相対完備の工業基盤を持っている。また、中国一番先に開放された大行政区としては社会改革が徹底的に進められ、平和の後方が東北旧工業基地の建設により良い条件を提供したと言える。東西陣営に分けられる米ソ冷戦構造も東北旧工業基地の建設に良い地縁環境を提供し、社会主義陣営のパートナーのソ連、北朝鮮、モンゴルとの隣接も東北発展に安全な地縁環境をもたらした。ソ連からの156件の援助項目の57件が東北地区に置かれたのはその要素もある。

二、東北振興戦略提出の国内外背景

 建国後の二回に渡る五カ年計画の建設によって、東北地区は鉄鋼、機械、有色金属、化学などの製造業、石炭、電力、石油などのエネルギー業、飛行機、船舶、武器装備など装備製造業を代表する割合完備の工業基地を形成された。「共和国の長男」として、朝鮮戦争、全面的にソ連に学ぶ過程において、中国の現代化への実現に多大な貢献を果たした。
 改革開放の敢行、特に中国式の社会主義市場経済の導入によって、前世紀80、90年代から、東北地区における長期に形成された計画経済の構造的体制的な矛盾が現われ、企業破綻と従業員レイオフを標しとする「東北現象」及び
農民の増収緩慢、農業効率低下を標しとする「新東北現象」が相次ぎ出現し、東北の旧工業基地としての地位が脅威されただけでなく、中国の新型工業化の道と自国の重工業方向の選択にも影響が出てくる。

1、国内背景

①地域発展の計画按配と共同歩調及び新型工業化

 建国後の旧工業基地の歴史から見ると、国際関係の変化に伴って、中央政府は形成された東北地区への投入を次第に減少させる。第三次と第四次五ヵ年計画期間中に、国際情勢の激変に伴い工業重心を内地と「大三線」 に移転させた。
第六次と第七次五ヵ年計画期間中投資の重心を沿海地区にシフト・傾斜し始めた。また、同地域への開放に伴う財税制、貸し付け、外資誘致、金融などの優遇政策のお陰で、東南沿海は東北地区を遥かにリードし、両地域の発展格差も従って大きくなりつつある。特に、国有企業の比例の高い悩みと東北旧工業基地の資源枯渇と転換が大きな社会と現実問題となる。2002年東北三省のGDP総計は南の広東省の60%しかなかったことを考えて、地域間の格差の非均衡がもう心配されるほど深刻された。地域間の発展と貧富の格差を是正することはすでに直面しなければならない国策レベルの問題となる。

②南北呼応、東西相互依存と地域競争の加速

中央の地域協調発展への重視により各種地域発展及び振興策も相次ぎ打ち出した。20世紀70年代末期の深セン、珠海特区の提出後、断続的に1984年沿海14の都市部を開放させる東南沿海開放戦略、1992年の上海浦東開発戦略、2000年の西部大開発、2003年の東北振興、2005年の中部立ち上げ策、2006年の天津浜海開発区計画など地域均衡発展を図る戦略を提出した。それによって珠江デルタ、長江デルタ、環渤海経済地帯を代表とする多様な経済圏を形成させつつある。その中の東北振興は中国での規模の最も大きい重工業基地を形成させ、上述の経済圏へ軽工業品を加工する基礎設備を提供できて、その改造と調整は特別の意義を持っている。

2、国際背景

①WTO加盟後の進行加速と自国の重工業基地

改革開放から現在にかけて、中国は外資誘致を通して外資の最新技術と管理を利用して自国の重工業を発展させ、新型工業化の模索に著しい成果を収めた。だが、WTO加盟約束の後期のいろいろな挑戦に面して、いかにして加工大国、「政界低廉加工工場」の苦しい現実を変えられるのか。東北振興は一つの血路を開いて、中央が思い財政負担から開放され、その振興によって中国重工業化の現代化、情報化と国際化を牽引し、中国の第四の増強極に発展させる。

 ②意欲的に北東アジア競争への参入

 世界中の最後の局地経済圏として、北東アジア経済圏の経済規模、投資潜在力は一二を争う地域である。地域内の中、日、韓、ロ諸国は世界政治と経済の舞台での影響力が大きい。東北振興を生かして、中国の北東アジア参入の橋頭堡を作り上げることは東北地域自身の発展と振興に繋がるだけでなく、中国の北東アジア戦略乃至東アジア戦略にも関わっている。ダイナミックの東北発展がなければ中国の北東アジアでの発言力が弱まって、中国経済全体の持続そして調和発展がないと考えられる。

三、東北振興戦略の政策及び内容

東北振興は系統性の工程である。それは、工業分野の振興だけでなく、工業で社会全体な振興を牽引する調整と改造である。その意味で、東北振興はすぐに完成できる目先のきかない措置ではなくて、調整と改造しながら漸次に修正しなければ成らない長期戦略である。

1、戦略形成と相応の指導機構

東北振興戦略が2003年10月に正式に提出されたまでに、幾つかの動きがその信号を伝えたと考える。2002年3月に作成した「第十次五ヵ年計画」で「東北地区など旧工業を調整・改造、資源採掘型都市・地域は持続可能な詐産業を振興」という主旨を盛り込んだ。続いて、2003年3月公表された「政府工作報告」には東北旧工業基地の調整と改造を支持する道筋を示した。同年8月、温家宝首相が黒龍江省、吉林省を視察し、長春で東北旧工業基地を振興させる座談会を司会し、「東北振興を最優先させて、東北振興が改革の情勢に合わせて加速させるやり方を探る」の講話を発表した。それによって、「新遼沈戦役」と呼ばれる東北振興計画は幕が開けた。2003年9月10日、温家宝首相の司会で国務院常会議では「東北地区等旧工業基地振興戦略の実施に関する若干の意見」の素案を通過させた。翌月、「東北地区等旧工業基地振興戦略の実施に関する若干の意見」は国務院11号文献として批准され公表した。この文献の批准によって、同年12月、国務院東北地区等旧工業基地振興領導小組を創設させ、東北三省でも相応の旧工業基地領導小組が成立した。

2、中央レベルの重大政策

「東北地区等旧工業基地振興戦略の実施に関する若干の意見」の工業構造の調整、近代農業の発展、第三次産業の発展、資源枯渇型都市の経済転換、交通・インフラ建設などの12項目に渡る中央級政策の内向性格に比べて、2005年6月に国務院36号文献として批准された「東北旧工業基地を促進するにあたり、対外開放を一層拡大する若干の実施意見」は外国企業と資本が国有企業改革への参入などを奨励、技術発展の推進、金融・証券・保険・物流などのサービス業の対外開放、投資環境の整備と完全等の内容は外向性格が濃い。また
2006年6月打ち出された「国民経済と社会発展の第十一次五ヵ年計画綱要」の中では明確に東北振興という国策を継続させる意義と重要性を強調した。

3、東北三省独自の重大政策

 東北振興に関する国レベルの重大政策のほかに、東北振興の当事者である三省が自分の省の事情に相応しい一連の地方政策を打ち出した。遼寧省の場合では、「遼寧省旧工業基地振興規画」、「遼寧省国民経済と社会発展第十一次五ヵ年規画綱要」を続出させ、2010年までにGDP一人あたり27000元、現代装備製造業と重要原材料という二大基地の完成、沈陽経済区と大大連構想の実現、「五点一線」沿海開発戦略を提出している。吉林省は「吉林省旧工業基地振興規画」、「吉林省国民経済と社会発展第十一次五ヵ年規画綱要」によって、年間平均10%の増長維持、600件の大項目の推進、自動車・石油化学・農産品加工・現代漢方薬と生物製薬・光電子情報などの基地の建設を目標として挙げた。黒龍江省は「黒龍江省旧工業基地振興総体規画」、「黒龍江省国民経済と社会発展第十一次五ヵ年規画綱要」で、2010年までにGDP8000億元の実現、年間GDP平均増長9%の維持、装備製造業・エネルギー・食品・森林工業など6大産業群、基地の完成を提出した。
 東北三省の規画と綱要の共通点の一つは、各省がそれぞれの特色を強調する一方、三省の地域内での提携、相互補完、合作振興の認識が一致している。

四、東北振興戦略の段階的な成果と展望

1、段階的な成果

 ①197件の大型プロジェクトを始動

 2003年末、国務院東北地区等旧工業基地振興領導小組が第一回目、総金額610にのぼった大項目を始動させた。批准された項目の大半が国からの手形割引などの優遇政策を受けられる。地域分布に見ると、遼寧省が受けた項目が一番多くて、52項目、440億元になって全体の72.5%を占める。黒龍江省が37項目、112.7億元である。吉林省が11項目、57.3億元である。始動された項目は装備製造業、原材料加工、農産物加工など東北三省の優勢分野に集められる。
 2005年、97項目になる第二回目の大項目を始動させて、国家開発銀行と国家科学技術部などによる国際融資が主である。

 ②断続的に実行可能の政策を導入

 中央の一連マクロ政策の導入によって、2004年から実行可能の政策をどんどん批准された。2004年から率先で黒龍江省、吉林省で農業税の全面免除政策を実施し始め、以下の代表的な政策を導入した。遼寧省の次に黒龍江省、吉林省で社会保障の実験的工作を推し広めること。増値税改革の方向に沿って東北旧工業基地にある装備製造業など8業種が購入した新規設備の増値税金を差し引くこと。条件のある一部炭鉱、油田に適当に資源税の税金基準を下げること。所得税改革の方向に沿って、課税される給料税金基準の控除など企業側の負担を軽減させること。一部の資源型都市の転換項目への扶助。一部の旧工業基地都市における中央直属企業を対象に中央財政の支持で社会的な機能の剥離実験的工作を実施させること。国有企業が創設した集団企業の問題を解決すること。破綻条件に合致する旧工業基地の企業に対して全国企業M&A及び破綻工作計画に優先的に入れられること。商業銀行に更なる措置で不良資産の処理と貸し出した企業への未払い利子の自主免除をさせること。東北地区など旧工業基地にある重大装備科学研究、設計項目に必用な援助を行うこと。

1、第十一次五ヵ年計画の地域発展と東北振興の続行

2006年3月14日の第十回全国人民代表会議の閉幕によって、第十一次五ヵ年計画は正式通過され、未来五ヵ年の発展戦略として実施段階に入る。計画の中では各地域発展と東北振興の続行をそれぞれ強調した。

①地域発展の総体戦略の実施

西部大開発の実施を堅持し、東北など旧工業基地の振興を継続し、中部地区の立ち上がりを促進し、東部地区に率先の発展で豊かになる地域発展の総体戦略を強調し、地域協調と相互依存の機制を健全させ、合理的な地域発展の局面を形成させる。

②東北旧工業基地振興の継続

 規画では、東北振興の継続を強調する一方、旧工業基地の振興で経済と社会全般を牽引させる意図も随所現われる。主旨として「東北地区は産業構造の調整と国有企業改革、改組を加速させ、改革開放の進行で振興を実現させる。現代農業を発展し、食糧の基地建設を強化し、農業の規模化、基準化、機械化及び産業化を推し進め、食糧の商品率と付加価値を高める。先進的な装備、優良品の鋼材、石油化学、自動車、船舶と農産物の精密加工を建設し、ハイテク産業を発展させる。資源への開発補償機制と衰退産業への援助機制を建立し、阜新、大慶、伊春、遼源など資源枯渇型都市の経済転換の実験的な工作を掴んで、バラック地帯の改造と石炭発掘で沈下された地区の整理を良くする。東北東部鉄道回廊と省を跨る自動車運輸回廊などのインフラ建設を強化し、市場体系の建設を加速し、地域の経済の一体化を促進する。周辺国の経済技術合作を拡大する。黒い土地の水土流失と東北西部の砂漠への総合整備を強化する。東北以外の旧工業基地の振興を支持する。」を挙げられる。



 (この文は2007年2月15日、ERINA東京プロポーザルセミナーによる発表文である)  


Posted by 虎ちゃん at 15:34Comments(0)論文・提言

2007年01月19日

旧工業基地振興に伴う東北地区の対外開放の現状及び展望


ERINA客員研究員・黒龍江省社会科学院経済研究所研究員 笪 志剛





中国中央政府が東北振興戦略を打ち出してからもう3年あまり経った。その間、東北地区において経済の快速成長、対外貿易の大幅増加、外資誘致の記録更新などの新局面を迎えてきた。同時に、東北振興をさらに加速させるために中央政府はこの3年間、「東北地区等旧工業基地振興戦略の実施に関する若干の意見」(国務院11号文献)、「東北旧工業基地を促進するにあたり対外開放を一層拡大する若干の実施意見」(国務院36号文献)を含めた優遇政策を続々と打ち出した。それによって旧工業基地振興を背景とする東北地区の対外開放は新たな発展の勢いが現れ、東北地区は珠江デルタ、揚子江デルタ、環渤海地区に次ぐ第四の増長極としての議論もますます活発化かつ現実化してきた。本稿は上述の旧工業基地振興策の実施及び関連の開放深化政策の提出による該当地区における経済発展、対外貿易、外資誘致、対外投資などの最新状況、新たな変化及び問題点をめぐり、東北地区における改革開放と経済発展のポテンシャルないし周辺国及び地区との協力の新たな態勢を探る。

1. 東北振興戦略と更なる対外開放
 2003年、国民経済全体の協調発展と中国工業体系の質を高めるため、同時に東北地区の持続的発展と社会的安定を維持して北東アジア地域協力に参加するために、中国中央政府は「中共中央・国務院の東北地区等旧工業基地振興戦略の実施に関する若干の意見」(国務院11号文献)を打ち出し、東北振興戦略が正式にスタートした。「意見」は東北地区の全面的な持続可能発展のためにマクロ優遇政策の決定と関連の資金援助を行い、同年11月に批准された調整と改造項目は100余、総額610億元、同時に行政窓口として国務院東北地区等老工業基地調整改造指導小組弁公室を成立した。また、増値税と企業所得税の改革、国債と特定資金項目の確定などの実施によって、東北振興は「全面対外開放」、「地域経済一体化」、「人材戦略」という三大戦略を象徴とする全面始動段階に入りつつある。2004年、2005年の実質的な作業と各種項目の確実な策定という段階を経て、2006年に入ってから東北旧工業基地振興戦略の効果が現われ始めた。特に、中央政府が東北地区の発展実情に基づいて2005年8月に「東北旧工業基地を促進するにあたり対外開放を一層拡大する若干の実施意見」(国務院36号文献)を策定し、対外開放を旧工業基地改造実現の重要手段と内容に位置付け、「開放で改革を促進し」、「外資誘致の質とレベルを高め」、「地縁のメリットを発揮し」、「雇用を優先する」という四つの面から対外開放を東北振興と結びつけた。また、科学発展観と人本主義に基づいて、「第十一次五カ年規画」で東北旧工業基地に関して実際に相応しい企画を策定し、東北地区の対外開放は新たに歴史的なチャンスを迎えている。

(1)東北地区対外開放の新しい特色
①工業を主体とする全面振興
全体的に見れば、東北の現代工業開発の歴史は1世紀ほどさかのぼり、民族工業の発端、半植民地と植民地の工業開発を経て、真の工業基地を形成したのは建国後の「第一次五カ年計画」と「第二次五カ年計画」時期だった。計画経済時代において、東北は全国経済の牽引役であったが、「東北現象」などが東北の発展に問題を積み重ねてきた。それに対して中央政府は「第七次五カ年計画」と「第八次五カ年計画」時期に前後して、「企業の三角債務の解決」、「現代的な企業制度の建立」、「国有企業の三年間難関挑戦」、「社会保障制度の構築」などの優遇政策を打ち出してバックアップしたが、単一的な政策で、組み合わせと協調性を欠けたため、効果が上がらなかった。今度の振興策は前例の教訓を受け、鉄道、高速道路、港湾などインフラ整備を強化する上に、総合協調的な政策体系により工業化を主体として農業及び第三次産業にまで波及する全面振興である。
②東北振興で全国安定を図る戦略
冷戦時代において、東北地区は中国国防の東と北の玄関で、国家軍事安全の戦略的な緩衝地帯であり、代替のできない国境が存在した。2003年に端を発した今度の旧工業基地の振興策は経済の持続発展を視野に入れ、「東北が衰微すれば全国は危うくなり、東北が振興すれば全国は安定する」という戦略的な見地から、東北地区の新型工業化及び振興を全面的なゆとりある社会建設と調和の取れた社会構築に結びつけ、東北振興に新たな地域発展という時代の要請があった。言い換えれば、以前の何回の中央からのバックアップと違い、今度の振興の成否は中国経済社会発展の全面振興と地域均衡の達成に繋がる戦略的な選択とも言える。
③対外開放と工業振興の結合
開放で改革・調整・改造・振興を促すという指導方針を堅持し、開放を拡大することを推し進め、東北経済の外向性を高め、体制・機構・企業の改革を促すために、国務院東北振興弁公室が中央の関連委託を受けて東北振興戦略の第一弾を打ち出してから、東北戦略の実施実情に基づいて対外開放の四つの重点を提出した。すなわち、1)開放で改革を促すこと。外国人投資家による東北国有企業の組織変換と改造への参入、外資による国有企業へのM&A及び株式所有を奨励する。どうしても返済できない歴史的な原因による税金債務は規定により国務院の批准で免除される。2)外資利用の質とレベルを高めること。3)地理的優勢を発揮して地域経済の健康的な発展を促すこと。4)雇用を優先的な目標として考えること-である。このような措置によって、対外開放と東北工業振興は統一的に配置されたと言える。

(2)東北地区の周辺国際環境の変化
 中央政府が2003年の中国共産党16回代表大会の報告で初めて旧工業基地振興戦略を提出してから2006年9月まで、調整と改造の推進、対外開放の深化によって、東北地区が臨まれた周辺国際環境は大きな変化を呈した。まず、中国の綜合国力が著しく増強したことである。GDPはすでに世界四位に昇り、貿易総額も日本を抜き米国とEUに次いでトップ三位に入り、一人あたりGDPが1780ドルで、外貨準備高がもう一兆ドル超で、中国が世界への影響力も次第に高まる。関連データによると、2005年中国経済の世界経済成長への貢献率は29%、貿易成長への貢献率は21%で、2006年はさらに拡大する見通しである。中国経済はすでに経済大国日本を含む景気を牽引する重要動力となり、「中国内需」と言われている。北東アジア地域にある日本、韓国の経済は持続回復中で、特に日本は戦後最長期であった「いざなぎ景気」を超えた成長が続けている。エネルギー価格高騰の牽引でロシアの外貨準備高が大幅増加し、経済も従って8年連続の好調が続いている。モンゴルも北東アジア経済提携の潮流に溶け込み、周辺国との鉱産物を始めの合作が増強している。北朝鮮問題は未解決のままだが中朝、韓朝貿易が拡大している趨勢は余り変わらない。北東アジア地域貿易・投資は世界貿易と投資全体の好調と安定によって記録更新の可能性が強い。国際分業及び中国の分業地位のアップによって中国の「世界工場」の地位がさらに固めていく。消費品の加工、組み立て、輸出が外資に伝統とハイテク関連の技術の中国移転を加速させる。これらは東北地区の更なる開放、北東アジア国際貿易及び投資に溶け込ませる何よりの駆動力であると考えられる。

(3)東北地区の面する国内競争環境
 一方、東北地区が直面する国内環境もますます厳しくなりつつある。中央政府が「東北旧工業基地を促進するにあたり対外開放を一層拡大する若干の実施意見」(国務院36号文献)など旧工業基地振興関連の優遇政策を続々打ち出し、東北の対外開放に多方面の政策保障と発展の機会を提供する同時に、早期開放によってすでに豊かになった珠江デルタ、揚子江デルタ、京津翼(北京市・天津市・河北省)環渤海経済地帯の所謂三大経済圏の中国経済への影響力が次第に目立ってきた。特に江浙の民営資本を中心とする内資北上の勢いが注目され、「新東北人」という新集団が登場し始めた。彼らの参入によって東北振興が加速する一方、競争も一層激化することに違いない。また、経済規模では三大経済圏に匹敵しえない東北地区は劣勢に追い込まれる可能性がある。2004年の統計によると、三大経済圏は輸出入額で中国全体の76.6%、外資利用で88.5%を占めた。2006年6月、中央政府が中国北部の経済中心と開放門戸を象徴する「天津濱海新区開発開放戦略」を打ち出したことは、環渤海経済圏を加速させ、北京を輻射し華北を牽引する意図が明らかである。東北地区は貿易・投資・服務・資本・人材などの面において機会に恵まれる同時に、地域競争の激しい南方各省の豊かな資本の挑戦を受けざるを得ないだけでなく、環渤海経済地帯の拡大に吸収され、或いは疎外化に押しやられる可能性もないとは言えない。また、2001年末の中国WTO加盟の受諾によって、2005年から中国はサービス業の更なる開放と新規参入許可の緩和を実施しなければならなくなった。第三次産業が普遍的に弱い東北地区にとってはリスクが優勢を下回るとはいえなくなった。そのほか、経済や生活レベルの格差による人材戦略・競争で、北部の人材が南方へ移動する“燕南飛”(南方の省へ就職すること)現象に歯止めがかからない状況にある。東北地区の人材優勢が南方の豊かな省からの争奪戦によって弱まっていく可能性が大きい。

2. 東北の優位性と対外開放現状
東北地区 は北東アジアの中心に位置し、東、北、西においてそれぞれ北朝鮮、ロシア、モンゴルと隣接する。日本海を隔てて日本と韓国を臨み、南は渤海湾を介して首都圏と華北と連なる。当該地域は主に遼寧省、吉林省、黒龍江省を含み、総面積が78.9万平方キロメートル、人口が10,757万で、それぞれ全国の8.2%と8.22%を占める。東北三省の地理的な優勢は顕著で、遼寧省は東北、華北、華東という三大経済地帯の結合部に位置し、北東アジア経済圏の中核的な存在である。また、東北重工業地帯と環渤海経済圏の交錯点にあり、当該地域の最初に開放された優勢を加え、東北開放の門戸と言える。吉林省は東北地区の中部に位置し、陸地的に北朝鮮、ロシア、モンゴルに隣接し、交通が便利で、インフラ整備も良好であり、周辺への輻射能力が強い。黒龍江省は対ロシア国境が3,000キロに及び、25の国家一級税関を持っている。日韓両国との江海連運の便宜だけでなく、シベリア鉄道へ繋がる優位性もある(表1)。
 国内ないし北東アジアにおける地理的な優位性はもちろんのこと、資源面の優勢も目立っている。東北地区は資源が豊富で、開発の歴史が短いというメリットがある。統計によると、現在、東北地区の原油産量が全国の40%、木材が50%、汽車生産量の四分の一を占めてある。該当地域の重工業と農業が発達し、建国して以来前世紀の80年代までに、経済成長は同期全国平均レベルをずっと上回って、中国の重要鉄鋼、化学工業、エネルギー、機械、林業及び食料の基地である。三省の綜合科学技術レベルはそれぞれ全国の六位(遼寧省)、十二位(吉林省)、十三位(黒龍江省)であった。上述の資源及び綜合工業体系は東北地区振興及び勢い良く立ち上がりの基礎である。同時に、該当地域は中国が北東アジア国際合作へ参入する拠点で、北東アジアと欧州を繋ぐ重要な輸送ルートと窓口である。東北地区の対外開放と経済の順調発展ができるかどうかは中国経済全体の持続発展、資源安全、地域バランスに関わって、重工業と化学工業を土台とする現代化の実現にも代替のできない役割を持っていると言える。東北振興促進策と更なる対外開放の打ち出し、また「五点一線開放戦略」、「哈大斉工業ベルト開発戦略」、「東北アジア経済貿易博覧会」など各省の独自の戦略によって、東北地区の地縁優勢、資源メリット及びポテンシャルが次第に現われると待望できる。



(1)優位性の特徴と経済発展
 東北地区は資源が豊かで、環境に優れ、都市が集中し、交通が発達し、知的な資源が多いという優位性を持っている。長年にわたり、全国の重要な工業・農業基地、対外貿易の基地、科学研究教育の基地である。北東アジアの中心に位置する戦略的・地理的な優位性を除いて考えれば、その経済発展の基礎はほとんど「第一次五カ年計画」とそれ以後の長い間の計画経済と密接な関係を持っている。すなわち、長期的な計画経済の影響で、東北地区は農業の栽培業、工業の重化学工業を特徴とする地域経済構造を形成した。このような工業基地が集まる産業構造は計画経済時代の一時的な輝きを浴びた後、改革開放の初期と中期で開放に見捨てられた出遅れと「東北現象」の衝撃を受けた。1978年の改革開放によって東北地区の経済はある程度発展したが、東南沿海各省との距離が大きくなったと言える。体制的、制度的、構造的な計画経済の後遺症が次第に現われ、旧工業基地も市場経済の壁にぶつかり次第にその優勢を失い、効率の低下、企業の生産停止、レイオフ、一時休職、資源の枯渇、環境悪化などに象徴される「東北現象」と、農業の効率低下、収入増の停滞、農村発展の疲弊などを代表する「新東北現象」が東北地区を覆った。地区全体経済も一時マイナス成長に陥り、中国経済転換期の負の代表地域となった。
1984年、中国政府による大連を含む14の沿海地域都市の開放に従って、東北地区も閉鎖的な計画経済の束縛から開放的な経済への転換を模索し始めた。1988年、遼東半島の開放、沈大高速道路の開通によって周辺2,000万人の開放商業圏が形成された。1992年の鄧小平氏の「南巡講話」によって琿春、綏芬河、黒河が相次ぎ開放された。東北地区は当初は大連がリードし、省都都市を拠点として辺境税関都市を控えた全面開放局面を形成する地区経済構成も生まれた。この2~3年、東北振興策と全面開放に関する好材料の影響で外資・内資とも北上の趨勢を形成し、渤海湾の海洋出口やロシア・北朝鮮への陸上隣接優勢を利用した北東アジア諸国との貿易・投資などの対外発展と更なる開放の起爆剤となっている。GDPの増加もその現われの一つである。2005年、東北地区のGDP総額は17,140.7億元で、同期中国全体183,084.8億元の9.4%を占め、1980年代後期の隆盛期の13.3%より後退したが、質の改善、開放の効果が充分あると考えられる(表2)。



(2)東北地区対外貿易現状
 東北地区の対外貿易は国家物資調達の指令貿易と沿海、国境開放から始まった。改革開放の深化によって、東北地区と国際間の経済往来も多くなり、貿易額も次第に増加しつつある。1978年、東北地区の輸出入総額は僅か16.77億ドルで、その内、輸出が15.94億ドル、輸入が0.83億ドル、輸出の大半も原油と製品油で、標準に達する地方商品はほとんどなかった。1987年の輸出入総額は58.19億ドルで、その内、輸出が50.68億ドル、輸入が7.52億ドルで、輸出と輸入はそれぞれ1978年の3.18倍と9.1倍であった。2004年の東北地区の輸出入総額は479.9億ドルとなり、その内、輸出が243.1億ドル、輸入が236.8億ドルで、それぞれ1987年の4.8倍と31.5倍であった。2005年の輸出入総額は継続拡大し、571.11億ドルとなった(表3)。


一連の数字変化を見ると、東北地区の対外貿易ウェイトは山西など西部各省と一部中部省より高いが、東南沿海各省と比べまだ低い。貿易パートナーを見ると、東北地区はすでに世界160余りの国や地域と貿易関係を結んだが、大部分が香港、日本、韓国、米国、台湾などの国や地区と取引されている。三省の間にも貿易総額の差異、輸出入のアンバランス現象がある(表4-1、4-2)。

(3)東北地区外資誘致現状
東北地区の外資利用と技術導入は改革開放初期の1979年からスタートし、当時はプロジェクトの導入、補償貿易、輸入品の組み立てを中心にして、次第に技術の合作、セットプラント輸入、重要設備の輸入に転換した。外資利用も当初の外資からの借款から外資との提携へ次第に転換したのである。
 1979年から1987年にかけて、東北地区の外資利用は1,116件で、契約ベースで24.5億ドル、実行ベースで8.53億ドルであった。1990年代以後、中国全体の投資環境の改善やインフラ整備、関連法律の完備によって、合弁と合作を主な形態とする外資の進出は独資へと変わり、大量進出のきっかけともなった。東北地区の対外貿易が主に日本、韓国、米国、ロシアなどに集中していると同様に、同諸国からの直接投資も東北外資利用の重要な柱となっている。例を挙げると、日本は遼寧省の第一の貿易パートナーと第二の投資国である。遼寧省に進出した日系企業の生産総額は320億元で、地元に14万件の雇用機会を創造した。日本の著名企業のほとんどがさまざまな形態で大連に進出している。同時に、日本は吉林省の第一の輸出相手国と第二の輸入相手国であり、外資利用の重要投資国である。日本は黒龍江省の第二の輸出相手国で、第五の投資国である。2005年、東北地区における実行ベースでの外資利用総額は46.82億ドルで、2005年末までに東北地区外資利用累計総額は425.93億ドル、全国の6.7%を占めた。三省の中で外資利用が最も多いのは遼寧省である。
2005年、遼寧省の外資利用総額は35.9億ドル、前年比172.7%と大幅に増加した。その内、1,000万ドル以上投入の項目は357件で、契約ベース総額が77.16億ドルである。分野別に見ると、製造業、不動産、情報通信などが多く、全体の85.2%を占めている。2005年末までに遼寧省の外資利用累計総額は382.3億ドル、東北地区外資誘致総額の79.3%を占め、遼寧省は当該地域の中枢省として重要な地位と早期開放された成果を表した(表5)。
黒龍江省の外資利用は香港、韓国、米国からのウェイトが高い。1998年から2004年にかけての累計外資利用で見ると、この三国の投資割合はそれぞれ37.41%、10.53%、9.21%で合計57.15%である。2005年、黒龍江省の外資利用は4.31億ドルで、前年比10.47%増であり、新規外国投資企業を266件認可し、投資国は香港、韓国、米国の次にヴァージン諸島、日本、ロシアであった。
1997年から2004年にかけて、吉林省の外資投資分野は主に交通運輸設備製造業、電気・ディーゼル及び水処理、食品製造業であり、特に自動車産業への投資と輸入は吉林省における旧工業基地の資源と産業優勢を反映している。2005年、吉林省の外資利用総額は6.6億ドルで、前年比46.1%増であった。新規外国企業を348件認可し、投資国は24の国と地区に達し、その内、1,000万ドルの投資国と地区は9に達した。ドイツ、米国、香港、韓国、ヴァージン諸島、日本の順であった。

(4)東北地区対外投資現状
早期開放に恵まれた東南沿海各省及び京津沪(北京・天津・上海)と比べて、特に中国対外投資総額の10分の1を占める上海と比べて、東北地区の対外投資の初動は遅れた。国家の「走出去」戦略及び奨励政策を打ち出した1999年までに、それらしい対外投資はほとんどなかった。近年、東北振興戦略の深化、東北地区対外開放のレベルアップによって、当該地域の経済は高度成長が続き、対外投資も出始めた。発達している他省のコスト削減と技術獲得のための対外投資と比べ、東北地区の対外投資は資源の獲得を狙っており、投資の大半は周辺にある発展途上国或いは資源の豊かな国・地域に集中している(表6)。
2000年に入ると、東北地区の対外投資は年々増加の趨勢を呈し、遼寧省がその趨勢をリードしているが、黒龍江省の対外投資も著しく増加し、2005年の投資額は遼寧省を大幅に超える記録的な年となった。2005年の東北地区の対外投資を見ると、投資件数では遼寧省が多く、他の2省の合計を上回る48件であったが、金額は9,316万ドルで、黒龍江省の2.37億ドルに及ばなかった。2005年の遼寧省の対外投資先は主に米国、香港、ロシア、日本、韓国、北朝鮮及びモンゴルで、技術特許、国際販路、資源確保の意図が目立っている。
吉林省の対外投資は主にロシア、北朝鮮、アフリカ、バングラデシュなどに集中し、先進国への投資はフランスと香港、マカオに集まっている。2005年の対外投資件数は23件で、中国側の直接投資額は3,340万ドルであった。近年の代表的な対外投資事例としては、ロシアの不動産、木材、運輸業への金龍有限責任公司、吉林新元木業株式有限公司、吉林盛銘実業有限公司、吉林宇別爾運輸集団公司などが有名である。そのほか、北朝鮮も吉林省の主要投資先である。
黒龍江省の対外投資は主にロシア、モンゴル、ボツワナ、香港、米国などに集中している。1998年から2005年にかけての累計海外投資額は7.2億ドルで、海外設立企業数が231社、投資先が39カ国であった。中でも、対ロシア投資は黒龍江省の重点とも言える。2005年末までにロシアに進出している黒龍江省の企業数は110社で、契約ベース投資額が2.7億ドル、実行ベースでも2億ドル以上と推計でき、全体の27.8%を占めている。特にエネルギー、鉱産物開発、木材加工などの規模が大きい。代表的な投資は、黒龍江省龍興国際資源開発集団有限公司の鉱産物中心の開発、黒龍江振戌・斯達実業有限公司の木材パルプ開発などである。対ロシア以外に、黒龍江華福実業有限公司がモンゴルで創設するモンゴルチュウバオン実業有限公司、黒龍江省国際公司が北京首都鉱業有限公司と提携して創設する図木爾泰鉄鉱石有限公司など、黒龍江省の製造業を支える資源の確保のための対外投資形態が注目される。



3. 東北振興の推進と対外開放展望
東北振興戦略の提出は、旧工業基地の資源枯渇による転換・構造調整を進める一方、最も重要なことは、調整と改造によって国家政策の効果、及び東北地区の持っている産業、資源、科学技術、労働力及び地理的優勢を発揮させ、科学発展観を樹立し、旧工業基地の開放レベルを高めることである。世界は経済のブロック化、地域化、国際経済一体化の趨勢にあり、対外開放は開放型経済の発展を促進し、産業構造を高め、国内外の資源を合理的に配置し、企業の外向化レベルを高め、国際競争力を増強させる鍵である。東北振興は単に資金を動員して投資環境を改善し、設備を更新させることにとどまらず、工業を主導とする社会全般にわたる大きな変革である。その変革の動力は対外開放であり、それによって国外の資金と優れた技術、人材、管理経験を導入し、社会全体の開放を引き出す。今度の東北振興にとっては対外開放が根本であり、国策である。経済成長の方式の転換、対外貿易増長パターンの変更、外資誘致の増強、実力のある企業の対外投資などはいずれも東北振興、特に対外開放に頼るものである。これは国家が東北振興を断固として実行する真意でもある。
現在、東北アジア地域協力、特に辺境地域の合作を強化する環日本海の地方自治体による会議が各種開催され、図們江地域開発をめぐって中・ロ・朝が前向きの姿勢を示し、東寧からウスリースクへの鉄道・航運建設も着実に進んでいる。「辺境経済合作区」、「中ロ互市貿易区」、「輸出加工区」のいわゆる三区優遇政策の国家レベル税関である琿春とロシア・ハサン、北朝鮮・羅津、清津の間に展開する国境を跨る開発区の建設は、吉林省の海とつながる夢が実現しようという段階を迎える。東北東部を貫き遼寧省・丹東まで通じる新規鉄道計画は東北辺境地帯の貿易を周辺諸国へ拡大させ、新たな物流輸送ルートが生まれる。黒龍江省は中央政府から人民元の境外投資金融試験的工作の優遇を得た上に「内引外連」すなわち国内・国外の二つの市場を利用する優勢によって、さらに内外の企業家を集め、東北地区における全体的な対外開放の潜在力が顕在化しつつある。



(1)東北振興と対外貿易レベルの向上
 東北地区の2006年1~11月の工業統計と1~9月及び1~11月の対外貿易統計を見ると、東北旧工業基地関連項目の実施及び第十一次五カ年規画スタートの波に乗って、対外開放が牽引する三省の経済は安定且つ高成長を呈している。1~11月、三省の経済規模は継続拡大し成長も加速している。その内、遼寧省の一定規模工業企業の工業増加額は3,559.81億元、前年同期比19.2%増であった。吉林省の一定規模工業企業の工業増加額は1,278億元、前年同期比18.6%増で、平均毎月16.8億元の利益を上げた。黒龍江省の一定規模工業企業の工業増加値は2,352.1億元、前年同期比15.1%増であった。
 工業の好調は対外貿易の好況を促し、2006年1~3月、東北地区輸出入総額は140億ドルで、それぞれ前年同期比7.9%(遼寧)、7.9%(吉林)、37.4%(黒龍江省)増を遂げた。2006年1~11月では、東北三省は625.6億ドルの輸出入を達成し、同期中国全体の3.9%を占めた(表7)。この間、遼寧省の輸出入総額は434.1億ドルで、前年同期比16.8増であった。その内、輸出が253.9億ドル、輸入が180.2億ドルで、それぞれ20.3%、12.3%増を記録した。国有企業の輸出額70.5億ドルに対して私営企業の輸出額が38.4億ドル、39.4%増で目立っている。日本、韓国、米国への輸出は130億ドルで、全体の51.5%を占めた。省の主要都市である大連の輸出額は156億ドルで、全体の61.4%を占めた。
 2006年1~9月、吉林省は輸出入額58.74億ドル、前年同期比21.6%増であった。その内、輸出は20.31億ドルで前年同期比7.3%増、輸入が38.43億ドルで30.9%増であった。吉林省の輸入が輸出を上回る原因は自動車部品の継続増加にある。1~9月、自動車関連部品の輸入額は10.9億ドルで、吉林省の輸入全体の28.4%を占め、吉林省の自動車産業が全体経済を牽引する役割が明らかである。
 2006年1~3月、黒龍江省の輸出入総額は25.8億ドルで史上最高を記録し、同期増加幅は全国トップであった。1~11月、黒龍江省の対外貿易はさらに拡大して118.2億ドルを完成し、初めて100億ドルの大台を超え、中国11番目の対外貿易100億ドル超の省となった。その内、対ロシア貿易が60.92億ドルと全体の51.6%を占める。綏芬河、東寧、黒河などの市と県の財政収入の80%以上が対ロシア貿易に依存している。その他、自動車と機械・電気製品の輸出が全体の増加を支えている。



(2)対外開放と外資誘致の質の向上
中国中央政府は東北の重工業化を重視し、開発によって当該地域の国有企業を活性化させ、資源の合理的な開発を図っている。そのために打ち出した一連の優遇政策は、外資の東北進出により良い条件を与えている。2006年に入ると、旧工業基地改造項目の実施と新五カ年規画の発足などの好材料により、東北地区の外資誘致状況は著しく変化し、新たな局面を迎えている。三省は大プロジェクトと戦略的投資者の誘致を突破口として、外資利用の規模と質を高めることに力を入れている。現存の工業パークと開発区によって外資誘致の拡大を狙う一方、東北地区、特に各省の特色と基幹産業に着目し、それぞれ自らの省にふさわしい外資誘致の新戦略を打ち出した(表8)。
遼寧省は、2008年北京オリンピックと2010年上海万国博覧会の前哨と言われる「世界園芸博覧会」(2006年5~10月、瀋陽)を積極的に利用して、半年の開催期間で1,000万人の入場者を実現し、観光による外資誘致への波及効果を果たした。また、国務院の支持を得て「五点一線」という最新の沿海開放戦略を発表した。これは、揚子江以北最大の島である大連長興島を中核として、渤海湾沿岸の営口、錦州湾の葫芦島、丹東、庄河花園口を連ね一線となる。この戦略の発表は欧米、日本などの投資者の目を引き寄せ、遼寧省の外資誘致の新たな目玉となっている。また、「遼寧省人民政府が沿海重点発展地域をさらに開放拡大させることに関する若干意見」という省レベルの奨励策を出し、外向発展と沿海・内地の相互促進に関連する5方面・12項目の具体的な優遇政策を発表した。それらによって、この1年足らずの間に、「五点一線」地域ではすでに外国投資企業18件を認可し、契約ベースで1.9億ドル、商談中の項目は186件に上った。2006年1~11月、遼寧省は新規外国投資企業を2,021件認可し、外資誘致総額は50.24億ドル、前年同期比111.84%増であった。
吉林省は海への出口が無い不利な現実の中で意欲的にロシア、北朝鮮と協商し、日本と韓国の資金及び技術を利用し、図們江地域開発のメリットをアピールしている。図們江周辺はすでに日本・韓国投資家の対象地区となり、小島衣料を始め外資の進入が加速している。また吉林省は一年に一度の「東北アジア経済貿易博覧会」を利用して、外資誘致に最大限の力を入れている。2006年1~11月、吉林省の外資誘致の実行ベース総額は14.5億ドルで、前年同期比42%増であった。契約ベースの項目の中には1,000万ドル超の大項目が36件で、前年のほぼ2倍となった。自動車、トウモロコシ加工などの伝統的な投資分野のほか、エネルギー、新型材料生産、不動産、医薬への外資進入が注目される。
 黒龍江省は多方面の資本を誘致し、国有企業改造などへ参入させている。中央政府による旧工業基地への優遇を活用して、各種投資家が原則的に負債を切り離し純資産だけを買収できる規定を発表した。これは、2004年11月に黒龍江省が提出した「哈大斉工業回廊」という省レベルの総合開発戦略と合わせ、黒龍江省の外資誘致の目玉となっている。2006年1~3月、黒龍江省の実際外資利用は2.24億ドルで、同期比18.5%増であった。黒龍江省への投資上位5国は香港、ヴァージン諸島、オランダ、米国、バルバドスである。




(3)東北振興及びさらなる開放における問題点
 東北地区は改革開放の千載一遇のプラス期を迎えているが、マイナス要因も幾つか残っていると考えられる。まず、東北地区は北東アジアの中心に位置し、発展の潜在力を持っているが、当該地域の周辺に存在する非調和要因も無視できない。特に遼寧と吉林省が北朝鮮と隣接しており、朝鮮半島の不安定による東北振興、特にさらなる開放策の実施にマイナス影響が避けられない。
また、当該地域の冷戦後遺症として二国間或いは多国間に残っている歴史認識の相違と領土問題、経済合作とエネルギー争奪の関係、経済利益と文化差異の関係などは、北東アジア経済一体化の妨げになり、東北地区のさらなる開放への障害とも言える。
 GDPから見ると確かに著しく成長してきたが、南方の発達地域と比べてまだ一定の距離がある。2000年以後の東北地区の平均GDP成長率11.9%に対して、同期の中国平均は13%、沿海地域はさらに高く16.4%に上る地域もある。東北振興は束の間の機会であり、いかに振興を持続することができるか疑問もある。また、対外開放の外向化レベルで見ると、東北地区は、ますます一体化を強める他の地域と相当の距離があることは否めない。2005年の東北地区の輸出入総額は571億ドルを完成したが、珠江デルタは4,280億ドル、揚子江デルタは5,217億ドルであった。環渤海経済地帯も東北地区を大幅上回ると推定できる。
 意識の開放改革も行わなければならない。改革・開放以来の東北地区の発展を見ると、著しい変化・業績と同時に、観念的な面での更新は南方諸省と比べられないところがある。例えば、グローバル経済と地域経済の一体化時代において、一個の省の力で各種産業が揃った産業構造を形成することは難しく、複雑な国際競争に充分に対応できない。三省各自の優勢を発揮させる同時に、大きく東北地区という観念を樹立することが必要である。東北にとって最大の優勢は、提携による発展の道を選ぶことであり、地域産業配置と経済一体化の選択である。それを実現するため、五カ年計画、十年計画を策定するときには、当該地域の総合的産業配置と資源および加工の協調優勢を確立しなければならない。東北経済区の早期形成は、三省優勢を最大限発揮し、将来の北東アジア経済圏の国際競争に対応する最も良い方式でもある。同時に、振興と対外開放、資源の合理的利用と開発、外資の投資コスト削除などもキーワードである。
 外資誘致において、適当なビジネスパートナーが見つからないことがしばしば問題となる。保守的な観念、国有企業の比重の高さ、企業所有制の不明確、買収負担の重さなどに面して、外資がまず考えるのは投資のコストと回収の問題である。この点から、東北地区の外資誘致は国有企業を改造する同時に、川上と川下の民営企業を育成することが肝心である。66,000余りの会員を擁する韓国貿易センターは2006年8月に専門の調査報告書を出し、韓国企業の東北進出に警告を発した。報告は、東北地区の中核都市の未成熟、不十分な地域ネット、競争意識に欠け、企業の成長環境に劣り、技術革新能力が低いことなどを指摘し、東北地区が珠江デルタ、揚子江デルタ、環渤海地域のような第四の成長極になることは疑問であり、時間がかかるという結論を出した。この報告は韓国企業の東北地区への進出を阻止するものではないが、東北地区の外資誘致上克服しなければならない側面を警鐘して参考になる。
 また、瀋陽、大連、ハルビン、長春など東北地区の中核都市とアジア主要都市との投資コストを比較すると、東北地区の振興深化とさらなる開放により、賃金など各種コストが上がる傾向が出始め、外資進出の障害の一つとなる。この2、3年の外資の動きを見ると、賃金など投資コストの上昇によって、より安いベトナム、フィリピンなどへ外資が移転する動きが出始めた。これは東北振興、東北地区外資誘致にとって新しいマイナス要因である。
 最後に、2007年に入ると環境問題と省エネ対策が中国全体として臨まなければならない問題となり、東北地区は中国最初の工業基地としての過去の優勢と裏腹な設備の老朽化とエネルギーの非効率に挑戦しなければならない。東北振興及びさらなる開放の実施過程で、外資誘致によって企業、特に国有企業の技術的な改造とレベルアップを促進できるか、いかにして環境改善と省エネを実現するかが重要な課題である(原文は[ERINA REPORT]2007vol.74掲載)。

注:フォーマット制限のため、文中の表データなどは略された。
参考文献:
「中国商務年鑑」1999年~2006年
「中国統計年鑑」1999年~2006年
「遼寧省統計年鑑」2006年
「吉林省統計年鑑」2006年
「黒龍江省統計年鑑」2006年
中華人民共和国商務部ウェッブサイト
中華人民共和国統計局ウェッブサイト
東北三省人民政府商務庁ウェッブサイト
衣保中等「中国東北地域経済」(吉林大学出版社)
陳才等「東北老工業基地新型工業化之路」(東北師範大学出版社) 
  


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2007年01月18日

中国企業の対日投資と日本の地方都市の取組みに関する考察

         ERINA客員研究員・黒龍江省社会科学院経済研究所研究員 笪 志剛

 はじめに
  21世紀に入って以来、中日両国の経済関係は新しい段階に入り、相互依存を強めながら発展している。中日双方の貿易額は2002年に1,000億ドルを突破して以来、2003年、2004年、2005年にはそれぞれ1,335億、1,680億、1,894億ドルに達し、2006年は2,000億ドル以上に達すると見込まれる。
一方、日本からの対中直接投資は2005年までに実行ベースで累計533.76億ドルに達し、2万社余の企業が中国に進出した。中国に長期滞在しているビジネスマンなどの日本人は7.4万人という公式統計があるが、実際はそれを大幅に上回る10万人以上であると推定される。日本との経済・貿易関係の緊密化によって、在日中国人も増加しており、60万人に達している。中国国内においては経済の高度成長に加え、大型国有企業は株式化への構造改革を進め、また、民営企業というニューカマーも著しく成長してきた。
各種の非公有制経済のウェートが次第に高まりつつある中、中国企業が力を蓄えたことで、日本への投資が徐々に増加している。これらの背景の下で、日本政府は従来の一方的な対外投資の方向性を改め、欧米はもちろん、台湾・香港・中国内陸に対しても対日投資を推進する政策をとっている。日本政府の投資誘致政策のほかに、地方の各自治体においても自らの地理的位置や経済的資源、企業間競争におけるポテンシャルを生かしながら中国側との結びつきを強め、また相手地域の選択も行いながら中国に向けた投資誘致を実施するところも出始めている。
 
1. 日本の対内投資誘致政策とその現状
 UNCTADの「2000年世界投資報告」に公表された外国向け直接投資に関するデータによると、140ヵ国の対内直接投資潜在力において、1位はイギリス、その次はフランス、ドイツで、日本は14位となっている。その指数はGDP成長率、一人当たりエネルギー消費量、カントリーリスクなどの要素に基づいて算出された結果である。その中で日本は投資対象として魅力的な相手国として評価されている。しかし、同報告の対内直接投資実績指数から見ると、日本は131位となっている。日本は投資誘致において潜在力が実績に結びついていないことが明らかであると言えよう。
2003年5月のIFS統計データにも以下のことが現れている。2001年の先進諸国における対内直接投資残高のGDPに占める割合は、アメリカ25.1%、イギリス38.6%、ドイツ24.2%、カナダ28.6%、オーストラリア29.5%に対して、日本は1.2%に過ぎなかった。日本の経済規模や対外投資実績などと比べると、外国からの投資規模との間には大きな落差がある。対外投資と対内投資の比率は1990年代半ばが10:1であったのに対して、21世紀に入ってやや縮小し9:5となった(2004年)が、依然として乖離は大きいものであった。日本国政府はこのような対外投資と対内投資のアンバランスの状況を打開し、外資誘致を通じた経済発展の促進政策に取り組むことで、特に過去10年間のバブル崩壊後の経済の停滞、デフレ状態の脱却に向け、外資誘致を日本経済の本格的な回復に導く手段とすることとした。
これにより、政府としては日本が対外投資大国の地位を維持しながら、企業進出における対内投資の新しいモデルを創出することに期待を寄せている。誘致相手国のターゲットは欧米の先進国からアジアの台湾、香港、中国にも向けられている。小泉首相は2003年1月国会における施政方針演説で、対内直接投資推進のための各種施策の展開により、2006年までの5年間で対日投資を倍増させ、対日直接投資残高を26兆円とする目標を打ち出した。その実現のために、小泉内閣は2003年から、「対日投資促進プログラム(INVEST JAPAN)」の推進を開始した。審査手続きの簡素化から、関連法令の改正、投資環境の改善によって、多国間のM&Aを促進し、地方自治体との協力で各種構造改革特区の設立により外資導入へのインセンティブを強化させることなど、次々と新しい政策を立て、外資による日本への進出に良好な環境や受け入れ態勢を整えつつある。
また、日本の在外公館の文化宣伝部門を通じて、積極的にPR活動を行った。日本貿易振興機構(ジェトロ)では日本政策投資銀行(DBJ)及び関連部門と連携し、2003年5月、外国企業に向けた対日投資の総合サービスセンター「対日投資ビジネスサポートセンター(IBSC)」を設立し、投資手続きの説明や各種アドバイス、コンサルティングなどのサービスを提供し始めた。DBJは金融面で対日投資プロジェクトを支援し、1999年~2004年の間、163プロジェクトに対して総額2,656億円の貸付金を提供した。
5分野74項目にわたるINVEST JAPANの政策的努力などにより対日投資政策は初期的に効果が見られ、2004年には日本への対日投資が初めて対外投資の355億ドルを上回る375億ドルとなり、今後もさらに拡大の方向に向かうものと考えられる。

2. 日本国内の外資誘致の地域間競争
 従来から、対日投資において外国企業による立地の主な地域は東京、大阪、名古屋、横浜などの大都市が中心だった。21世紀に入って以来、日本政府による構造改革の進展に伴い、投資に関するビザ制度、法律、法規が次第に緩和され、地方自治体による権限も拡大の方向に向かいつつある。地方は投資誘致を通じて誘致対象国との交流と情報交換を進め、税収と雇用を増加させる効果にも期待し、対内投資推進におけるさまざまな施策競争を進めてきた。
より多くの外資を地元に誘致するため、自治体の中には専門の投資誘致機構を設立し、外国語が堪能な人材をサービスセンターで業務に従事させ、投資環境を説明したウェブサイトを開設するなど多種多様な活動を行ってきた。また、自治体とその関係機関は投資対象国へ投資誘致ミッションを派遣し、投資環境説明会を始め多様な機会を通じて対日投資をPRした。それらの地域の経済発展の程度や対内投資の実績から外資誘致の総合的なレベルを区分すると、以下のモデルが挙げられる。

(1)圧倒的な優位性を持つ東京・首都圏の投資環境
 東京は、戦前戦後の経済回復期、経済の高度成長期、及びその後の長期間にわたる低成長期までの間、一貫して日本の首都としての機能を有し、ほとんどあらゆる社会の要素が一極集中されてきた。国土開発の不均衡を招きながらも、東京は長期間にわたって戦後の発展と繁栄を享受し、日本の政治、外交、文化の中心として他の都市にその追随を許さず、周辺地域に膨張してきた経緯がある。
経済集積に関しては、全国の11%の工場と大手企業の本社のほぼ半数以上が東京およびその周辺に集中し、工業生産高は全国1位である。戦後日本の都市化および交通・通信の急速な発展に伴い、東京と隣接する横浜、川崎、埼玉、千葉などの都市の連結により、京浜工業地域が形成され、造船、鉄鋼、機械製造、化学、石油、出版印刷業等の優位性が確立された。また東京は日本のビジネスと金融の中心となり、証券、外為、先物の各市場は世界的にも重要な地位にあり、大きな影響力を有している。以上挙げた要因は、多くの外資系企業が東京への投資を展開してきた動機とも言える。
関連統計データによると、外国企業は90%以上が東京地域に集中している。このような、長期にわたり形成されてきた様々な優位性は、他の地域にとり競争相手となり得ない要因となっている。そのため、東京及び首都圏に対する対内投資の割合は言うまでもなく日本の中で第1位である。
  
(2)大阪・福岡など大都市としての条件を持つ地域の投資環境
 大阪、福岡の投資環境は、地理的な条件と発展した商工業の集積地という特性がある。周知のように、大阪は関西地方では最も重要な都市であり、同時に日本の重要な商工業、海運、陸運交通の中核である。1868年の開港以来、1874年には鉄道が敷設され、1889年以後、阪神工業地域の中心となっている。主に鉄鋼、機械製造、造船、化学工業、紡績、製紙を中心とし、工業生産高は東京に続き全国第2位となっている。大阪府及びその周辺地域には、日本の70%以上の中小企業が集中し、多くの企業は独自の特許技術を有している。
福岡市は九州北部の重要な港湾都市であり、港の歴史が長く、1939年に第1種重要港湾、1951年に重要港湾、1990年には特定重要港湾に指定された。人口は140万で、西日本の中心となっている。福岡県のGDPは1,620億ドル(2003年)であり、北欧のデンマークやノルウェーの経済力に匹敵する。工業が発達し、中でも北九州市は重要な工業地区である。主要産業は食品、金属加工、機械製造、紡績、印刷、自動車などで、中小企業が多数を占めている。
大阪と福岡は外資誘致に最も積極的な姿勢をとっている都市である。大阪市は経済規模が大きいという特徴を利用し、日本で最初に外資による工業団地が設立された都市である。2002年12月には、大阪にある複数の経済交流団体による代表団が派遣され、中国上海市や杭州市で外資誘致説明会などの活動が行われた。福岡は対馬海峡を挟んで韓国、中国・上海地域との地理的な近接性があり、九州上海事務所(福岡県、市、九州電力の3者共同)の開設を通じてこれらの地域をターゲットした観光や企業の誘致を着実に展開しつつある。 
 
(3)新潟市、仙台市など地方都市の外資誘致
 以上挙げた二つの外資系誘致の先進的地域と比較して、今後の取組みが期待できる地方都市の代表として新潟と仙台を取り上げてみる。新潟と仙台の投資環境としては、港湾と空港を有するという一定の優位性を持っているが、課題も多い。両地域は政策的には投資誘致の遅れている地域ではあるが、市役所を始めとする行政、産業界は誘致に力を入れはじめ、新潟型、仙台型の投資誘致パターンが形成されつつある。
新潟市は日本海側最大の港湾都市であり、また古くから日本における石油、天然ガスの主要産地でもあり、良質の農産物を産出する自然環境も有する。歴史的にロシアと中国との交易が進められていた経緯があったため、北東アジアという視野で積極的に環日本海諸国との交流を展開し、機械工業、化学工業、造船、金属製造や食品加工、紡績、製紙などの企業が中国をはじめとする世界各国と取引を行っている。
仙台市は東北地方最大の都市であり、重要な工業中枢である。製油、電子、鉄鋼、ゴム、出版印刷、食品工業などの企業が臨海部の工業地域を形成している。仙台は工業が発達している利点と新しい産業の導入を通じて、新たな人材育成と発展の方向を定めることを課題としている。
新潟・仙台とも中国東北地方との連携と友好都市の関係を活かし、投資誘致の対象を選択するなど、独自の方策を模索しつつある。新潟市はハルビン市政府及び黒龍江省における最大級のシンクタンクである黒龍江省社会科学院の協力を得て、2005年7月、ハルビンで投資誘致説明会を開催、60人余りの現地企業代表が参加した。その後、時期を変えて長春、瀋陽、上海でそれぞれ同様のセミナーを開催、2006年には天津での開催も計画中で、新潟進出を目指す企業の発掘に力点を置く。仙台市と地元産業界は、浙江省温州の企業、横浜の温州商会と提携し、仙台における空中中華街建設の総合計画を視野に入れて懸命な中国企業の誘致に取り掛かり始めている。

3. 中国企業による対日投資の基本的状況
 1999年、中国政府が「走出去」(中国企業による対外進出・投資)戦略を打ち出して以来、中国経済の景気拡大により創出された企業の海外への投資意欲が盛んとなり、2004年末までの間の中国対外投資は7,647案件、総額448億ドルに上った。注目される案件として、レノボ(聯想)集団による米IBMのPC事業の買収や、中国石油天然気集団公司(CNPCペトロチャイナ)によるカザフスタン石油会社の買収事案、中国石油化工股分有限公司(SINOPEC シノペック)のナイジェリアへの石油施設への関連出資などがある。2005年の対外投資額は2004年を上回る69.2億ドルで、うち60.3%はアジア地域に集まり、主に香港、カンボジア、日本、モンゴル、ベトナムなどへの進出が多い。2005年末までの海外進出案件総数は8,000件を超え、金額は550億ドルとなる見通しである。
 中国企業による対日投資も次第に増加しつつある。2004年末までの中国企業による対日投資額の累計は1,000件以上、総額1.39億ドルで、中国対外投資相手国ランキングの14位にある。また、在日華人、留学生など中小規模の起業投資と日本人の名義を借りた投資、そして香港、台湾による対日投資分も含めば、おそらく累計で3,000件を超え、総額は100億ドル以上に達するものと推定される。
中国企業による対日投資案件の中で、もっとも注目されたのは2001年1月、上海電気集団と香港企業との連携による日本の大手印刷会社、(旧)秋山印刷機器(所在地:茨城県、世界の印刷機器業界ランキング第6位)の買収であろう。秋山印刷機器はその後、「アキヤマインターナショナル」と改称し、上海電気集団はこの買収によって、印刷機に関係する技術を獲得、同業界において先進印刷技術を持つ企業との格差が18年相当縮小された。2003年の販売額は5,400万ドルを実現し、黒字に転換できた。
また、上海電気は2004年に機械メーカーである池貝も買収した。類似の案件では、2001年、広東美的電気による三洋電機(本社所在地:大阪市)の電子レンジ事業の買収がある。
 2002年には、海爾集団(ハイアールグループ)が三洋電機と共同で5億元を投資し(海爾集団40%)、「三洋ハイアール」を創業したことによって、海爾集団は日本での販売ネットワークを獲得し、東京の秋葉原電気街でも販売することができた。
2003年7月、製薬大手の広東三九集団は富山県にある東亜製薬の株式60%を買収し、同社の経営権を獲得した。これによって、三九は日本の医薬品製造販売許可を取得し、三九が持っている国際販売ルートを利用して販売が行われた。
 日本が過去20年間、中国へ一方通行で投資を行ってきたことは、中国企業の実力向上に寄与してきた一因であるとも言える。日本の対内投資ランキング第15位に位置する中国の対日投資はいま、中国政府の対外投資奨励政策の徹底とともに、民営企業を始めとする中国企業の対外進出意欲の向上によってなされている。中国企業が日本企業に対してM&Aを行っていく時代も、必ず来るに違いない。

4. 新潟の外資誘致政策と特徴
 中国企業の対日投資の動きが加速しつつある中で、新潟市が中国東北地域からの企業投資を誘致する独特な手法が日中双方の行政、産業界、関係団体など広い範囲から注目された。
 東京、横浜、大阪、神戸などの諸都市と比べれば、新潟市は投資誘致先としての魅力は多弱いとも言える。しかし新潟市は、北東アジア経済圏のゲートウェイというメリットを利用して、新潟に対する外資系企業の投資誘致を多岐にわたって展開している。特筆すべきこととしては、新潟市は2007年の政令指定都市移行を推進しており、交通、物流、通信などのインフラ面の整備や対岸諸国との関係強化などの面から、自ら新潟市の発展戦略および特徴に相応しい政策を制定し、また、積極的に投資誘致活動に努めていることである。

(1)新潟市の主な投資誘致の内容及び政策
 新潟市は日本政府が推進する対内直接投資政策に連動する形で、外国企業の進出促進を目的とした特区をして日本国内では初めてとなる「新潟市国際創業特区」を設置した 。この特区を通じて、新潟市への直接投資や支店の設立などに意欲のある外国・外資系企業に対し、オフィスと在留資格面での優位性を発揮している。これは外国企業にとってビザを取得することが非常に困難な日本の出入国制度下で、外国人に対して何よりの便宜を提供することとなった。
 また、新潟市は外国企業が新潟市に投資する初期における事務所の提供や、現地法人の活動時の補助金支援を行っている。具体的には、IT産業及び関連産業の用地補助や補助金制度、工場建設促進助成金、雇用促進補助金、産業活性化研究開発補助金、事業資金の融資制度、総合相談窓口の設立などの優遇措置をとっている。
 また、上述した支援だけでなく、外国企業による新潟市への視察調査などの面でさまざまな支援が与えられている。例えば、「ハルビン東方餃子王餐飲連鎖有限公司」(本部所在地:ハルビン市、東北地域にある有名な餃子チェーン)と「北京章光101集団」(本部所在地:北京、中国で最も有名な育毛剤製品メーカー)が新潟で視察を行った際、行政側はこれを非常に重視し、関連情報提供から各種のコンサルティング、企業見学、物件紹介まで、非常に行き届いた便宜を提供した。

(2)新潟市の投資誘致におけるいくつかの特長
①交通、物流などインフラ面での優位性
新潟市は、環日本海の各国・地域と密接な交流関係がある。輸送面において、新潟港は韓国・釜山、中国・大連、天津、上海、青島、台湾・基隆、高雄の諸港との間に定期航路があり、他に東南アジアへのコンテナ航路などのルートを持っている。新潟空港はロシア極東地方、ソウル、上海、ハルビンなど国際航空路を8路線、国内では大阪、名古屋、福岡、札幌など主要都市に航空路が開設されている。新潟は環日本海の中枢都市としてその重要性を次第に増してきている。東京からは上越新幹線を利用して約2時間で到着でき、関越自動車道、北陸自動車道、日本海東北自動車道などの高速道路網により日本各地とつながっている。以上のような完備されたインフラは、外資系企業に対する新潟への投資誘致の基礎であり、外資系企業が新潟に進出する際に不可欠な前提要素とも言える。

②友好関係下の外交機構の誘致 
過去のERINAによる調査では、中国企業が外国へ投資する際、本国政府及び対象国にある自国駐在機関による情報を重視する傾向があるとの結果が出ている。新潟市は、環日本海沿岸の諸国に対して積極的に駐在機関の新潟への開設を働きかけてきた。すでにロシアと韓国の総領事館が設置されており、中国政府に対する働き掛けも積極的に行われている。
また、新潟市と友好姉妹都市との関係でも、乾杯交流から実務と結果を重視する経済貿易関係の促進にシフトしている。新潟市は中国・ハルビン、ロシア・ハバロフスク、ウラジオストクなどの都市との友好関係を一層促進させるとともに、アメリカ、韓国などの国の都市とも友好交流を行っている。このような努力による国境をまたがる人的なネットワークの強化と、広範な地域間のネットワーク構築も、新潟への外資誘致にとって大きな役割を果たすことができるもの予想される。

③行政と産学官の相互提携の効果
行政主導による投資誘致は場合によって高いコストを要するが、新潟市は投資誘致の実践と研究機関との連携を結合することで効果を挙げている。具体的には、ERINAと中国東北各省にある社会科学院などのシンクタンクとの「産業連携における外資系企業誘致に関する日中共同研究」(平成15年度外務省日中知的交流支援事業)の結果に基づき、意欲的に産官学の連携を強化した。
昨年、東北三省の各都市においてそれぞれ開催された新潟市の投資環境説明会は、行政機関と両国の地域シンクタンク及び関係企業との共同参画により、将来の可能性の一端を覗かせた。

5. 新潟市への投資についてのハルビン市企業の考え方
 中国企業による対日投資のメリットとデメリットは、中国における政府の対外貿易部門が研究する重点項目となっている。「なぜ日本へ投資するのか、運営はいかにするのか、継続的に発展拡大する可能性はあるのか、時期としては有利なのか、両国の政治関係は影響するか」などについて、産官学の意見は多種多様である。反対の立場を取る者は「中国企業、特に民営企業の発展がまだ日本へ投資するような段階に至っていない。今は中国国内で経営しつつ、企業体質を強化させる必要がある。」と言っており、一方、対日投資を賛成する意見としては、「国際発展の周期論によれば、GDPが一人あたり1,200ドルに達すると、企業は対外投資の能力を持ち始める。中国企業は日本への投資を通じて、技術とパテントを獲得し、企業ブランドを形成させる時機がきている。対日投資のチャンスを失うことなく、日中の双方がメリットを享受し、相互依存の前提に基づいて、積極的に対日投資を行うべきである。」と主張している。また、「日本では、中国経済が成長して、企業の利潤も拡大し、国民収入が増加してきたことにより、日本政府と地方自治体による中国企業からの投資誘致への期待が急激に高まった」とも指摘している。                                              
 このような賛否両論がある中で、2005年7月20日、新潟市とハルビン市政府、黒龍江省社会科学院は「新潟市投資環境説明会」を共同で開催した。ハルビン市の張顕有副市長、新潟市の大泉助役及び双方の外国貿易関連部局の担当責任者が出席、ハルビン市内の企業50余社、約60人が参加した。日本側から出席したERINAは、ハルビン市企業による新潟市へ投資の可能性について調査を行うためアンケートを実施し、45件の回答を得た。そのうち15件は日本への投資意向があり、さらにそのうち13件は新潟へ投資の意向があった。
 同投資環境説明会を通じて示唆された以下の3点を強調したい。

(1)相互投資誘致の新たな概念
世界経済がグローバル化した今日、経済の占める重要性はますます強くなっている。協力と競争の構造は変化しつつあり、「発展途上国は外資を誘致するだけで、先進国への投資能力がない」という考え方は改めるべき時がきた。東北三省で実施された対日投資意向調査の過程で最も抵抗があったのは、企業ではなく中国側の行政であり、自国企業が外国への投資を行うことは不可能であると考えていただけではなく、現地企業の「走出去」(対外進出)による外貨の海外流出は望ましくないという考え方を持っていた。
昨年、米国政府が実施した「本土資金返還法」の特恵政策から見ると、米国企業は明らかに全世界規模での投資によって潤っているものと考えられる。シンガポール政府も自国企業の世界進出の現状に合わせて、対外投資立国の戦略を打ち出し、企業の対外投資と国際化を支援する強い姿勢を示した。グローバル化による賃金・労働力コストの増加、エネルギーの減少が予見できる将来においては、工場が国境を超え、エネルギー、技術、特許、ブランド、経営管理を相互に必要とする時代はドラスティックな手段をとらずとも到来するであろう。

(2)投資誘致の対象地域と目標の設定  
 今回、新潟市は北京、上海、天津など経済発展が進んでいる大都市での投資PRによる即効的な結果を求めなかった代わりに、新潟と友好関係があり、人と文化の交流が盛んに行われているハルビン市をはじめとする東北地域を投資誘致の対象として選択し、対象企業も信用力などから勘案して一定程度に絞った。明らかに投資が困難と思われる業種や、日本市場での結果が期待できない企業はふるいにかけられた。それと比べ、中国における投資誘致は多少盲目的に行われ、多国籍企業や大型企業の誘致に力を注いだが、特許と先端技術をもち、日本の企業数の99%以上を占める中小企業への誘致が軽視されてきた。
新潟市は誘致対象の選別において、3~5年の内には民営企業が主要な対外投資の主体となると予測し、それによって積極的に投資対象を選択し、業種によっては優遇程度にも差別化も図りながら投資誘致政策を制定している。この方策は将来明らかに効果が得られるものと評価したい。

(3)並存する対日投資のチャンスとリスク
 新潟の紹介を通じ、中国企業にとっては日本への投資に、完備されたインフラ環境、多国籍企業の支店や工場が多数あること、高い技術力と国際的に信用力のあるブランドなどより多くの優位性とビジネスチャンスがあると感じられる同時に、日本への投資過程において顕在化するリスクも無視できない。世界の中でも極めて高価な営業コスト、オフィス家賃及び生活費のみならず、法律、税理、通訳・翻訳に関わるサービス料も非常に高く、中国企業の投資意欲をそぐことも考えられる。資金不足と実力がまだ脆弱な東北企業、特に民営企業に対して優れた日本の製造業が抱く危惧と敬遠感、日本の金融システムにおける融資手続の煩雑さ、外国企業に対する警戒心などの要因により、中国企業への融資も制約を受ける。
そのほか日本の経営風土、商習慣などから、地域の経済界・団体等には外資系企業、特に中国企業による買収や進出に対する抵抗が一部に存在することもある。また、企業間の激しい競争での生き残りに進出企業が直面する場面もあろう。
中国企業の対日投資は端緒についたばかりであり、行政や企業における課題が具体化するにつれ、その克服にはより緻密な対応が求められよう(原文は[ERINA REPORT]2006vol.70掲載)。


(参考文献)
1.「産業連携促進のための外資系企業誘致に関する日中共同研究」 ERINA 2004年3月
2. 「外資系企業誘致研究報告書」 新潟市 2005年3月
3. 福岡県、大阪府、新潟県の外資系企業の誘致資料 2003年
4. 「対外投資統計公報」 中国商務省 2004年
5. 「投資日本十大優勢」 日本貿易振興機構(中国語版) 2004年
5. 「走向東瀛-黒龍江省企業の日本進出に関する展望の中日共同研究」 日本僑報出版社 2005年12月 
  


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