2007年01月18日

チチハル第二機床(工作機械)工場を訪ねて

      ERINA調査研究部客員研究員・中国黒龍江省社会科学院研究員  笪志剛

 6月28日、ERINA自主研究事業である「東北振興及び中国対外投資研究」の現地調査で「哈大斉」工業コリドールの中核都市であるチチハル市にあるチチハル第二機床工場を訪問した。
 ハルビン・大慶・チチハル工業コリドール(「哈大斉工業回廊」、中国では「走廊」という)は2004年11月、中国中央政府の東北振興戦略に同調して黒龍江省人民政府が打ち出した地方レベルの開発戦略である。具体的には、黒龍江省の省都であるハルビンから石油生産基地である大慶、重工業都市チチハルなどの大都市とその周囲地域を高速交通体系で結び、産業が高度に集積された工業地帯として形成させる構想である。

 長期目標としては2020年までの15年間で重度のアルカリ土壌である同地域の921平方キロを開発、5つの都市を軸とし、都市間の交通ルートを中心軸とする。
帯状に広がる哈大斉工業回廊構想は、海外マスコミからも「中国東北旧工業基地振興における重大な戦略配置」と報道され、黒龍江省の小康(ゆとりのある社会)社会を推進するための産業戦略である。
 ERINAでは中国の国家政策である東北振興戦略について経過的に調査研究を重ねてきているが、今回はその一環として哈大斉工業回廊を直接訪問した。ここでは、重工業都市であるチチハルの訪問を通じて取材した国有企業のケースを取り上げることとしたい。

 6月末近くともなると中国は東北部でも30度を超える真夏日が珍しくない。丹頂鶴の生息地として知られ「鶴城(鶴の市)」の異名を持つ黒龍江省チチハル市は北緯48度に位置しながらも大陸性亜寒帯気候のため夏は暑く、冬はマイナス30度まで下がる。
 チチハルはダフール語で「辺境」、「天然牧場」の意味である。清朝の黒龍江将軍府と建国初期の黒龍江省の省都はここに設けられたことがある。地元の住民によると、地形的に坂が少なく、平野に街が広がっていることや国有企業が集中していて労働者員が多いため、チチハル市は省内でも自転車が多いことで有名な都市とのことである。
 また、チチハル市は中国建国初期に建設された最初の工業基地で、確固とした工業基盤を持っている都市でもある。膨大な企業群の中でも、当時の周恩来総理から「国宝」と「掌上の玉」と呼ばれた第一大型(重型)機械工場、北満特殊鉄鋼工場、中国工作機械業界でもランキングに入るチチハル第一機床工場と第二機床工場、中国における最大の鉄道貨物車両製造メーカーであるチチハル車両工場、「和平」、「建華」、「華安」といったブランドで知られる軍需産業企業もチチハル経済の支柱となっている。
 これらの企業の中で、今回はチチハル第二機床工場を訪問した。同工場は1950年に創立され、当時は旧ソ連からの対中支援プロジェクトの一つとして立ち上げられた。従業員はピーク時に3万人を超えたが、1990年代以後、レイオフを中心とした何回もの企業改革の試練を経て、現時点の従業員は4,000に減った。創立以来、関心を寄せた国家指導者も多く、毛沢東による同工場の模範労働者、馬恒昌の接見を始め、鄧小平、江沢民、そして現政権の国家主席である胡錦涛がそれぞれ訪問している。
 2001年以来、中国政府による経済の国家マクロコントロールが奏効し、経済の好転によって、第二機床も再生の時期を迎えた。企業業績は今のところ5年間連続して成長基調を保ち続けている。従業員の給料水準も向上しており、一般の従業員で月額2,000元、技術者従業員は3,000元の給与を得ている。

 増収増益によって従業員の勤労意欲も大いに高まっているとのことで、このような景況を維持するため同社では財産権制度の改革に着手した。チチハルには大規模な国有企業が8社あり同社の規模は下位に属しているが、株式制度と財産権制度の改革は最も早くから開始し、現状としては基本的に最終段階に入ったと言える。
 具体的には国の優遇政策によって審査の上11億元の財政支出を許可された。企業もそれを条件に有限責任公司に変容し、傘下にあった子会社2社も本社の負担を軽減するためグループから手放し民営化された。
 また、中国国家発展銀行による全国機床連盟も発足し、同社もそれによる融資を取り付けることができ、今後の発展のための大きな基盤整備ができたとしている。
 国有企業の民営化と外資との提携について、中日双方のさまざまな場面において検討が繰り返されている。同社のケースでは1990年代の不況期には従業員への給料まで支払えないほどの体験をし、必死で外資との提携・買収による企業の再生を模索したが、頼みとする外資からは対応してもらえなかった。日本の大企業に対しても提携の打診をしたが断わられるなど辛酸を舐めたが、現在では中国国家発展銀行による支援と資金導入の結果、企業体質が改善され、自ら関心を表明する外資が増えている状況である。
 工場内に設置されている各種設備は2,000台、その中には18メートル高の大型工作機械組立ショップを9ヵ所、大型設備運搬用160トン級のクレーン、面積4,000平方メートル
の恒温ショップと空調の付いた計量センターなどがあり、超大型・重型の工作機械、椴圧機械の生産が可能である。
 現在、ドイツ、日本、イタリア、ロシアなどから関連技術を導入し、縦型デジタルフライス盤、横型デジタルフライス盤、椴圧機械など、200種類以上に及ぶ製品を世界40ヵ国へ輸出している。小型デジタル式工作機械の製造現場では、職場の従業員はおおむね300人だが専門的技術を有する従業員が60人しかおらず、他は全て補助従業員であり、連日2シフト制を敷いているがそれでも生産が間に合わない状況を見聞した。
 最後に中国の経済発展において大きな関心事となっている省エネルギーの取組みに関して訊ねたところ、工場としては電気、燃料など多くのエネルギーを消耗しており、節約の一環としてこまめなスイッチの開閉などを提唱しているが、技術的にはまだ不十分で今後克服する必要がある、東北振興政策のプロジェクト指定によって、関連の経費が獲得できたことにより省エネの方面にも力を入れたいとの答えがあった。
 宣伝はされているが意外と知られていない東北振興政策の実情と未来図がうかがえるような訪問だった(原文は[ERINA REPORT]2006vol.72掲載)


図:チチハル第二機床(工作機械)工場の庭(構内に飾ってある写真は歴代中央指導者が当該工場を視察された様子)

チチハル第二機床(工作機械)工場を訪ねて

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Posted by 虎ちゃん at 18:08│Comments(0)視察・報告
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