2007年02月20日

「東北振興戦略」国策の提出及びその内容

ERINA調査研究部客員研究員 黒龍江省社会科学院経済研究所研究員  笪 志剛


「東北振興戦略」国策の提出及びその内容
               
                     地図は中国国家統計局HPにより

一、東北旧工業基地への歴史回顧

東北旧工業基地は東北地区における豊かな資源、相対完備の工業基礎、良好な社会基盤、有利な地縁優勢によって中国建国直後の第一次五カ年計画と第二次五ヵ年計画の実施によって、第二次五ヵ年計画末期まで形成した工業基地である。建設し始めの1953年からスタートして、1965年までに漸く完成された。

1、東北経済区概況

東北経済区 は遼寧省、吉林省、黒龍江省所謂東北三省、内モンゴル自治区東部の三市一盟(赤峰市、通遼市、呼倫貝爾市と興安盟)を指し、面積は125.17万平方キロメートル、人口は11,741.22万人、それぞれ全国の13.04%と9.26%を占める。該当地域には、50万人を超える大中レベルの都市が30余りあり、国境線の総長が7,500キロに達し、海岸線も2,178キロあり、水陸税関が多くて、日本海に近くて太平洋にも通じて、海陸交通の便宜を持っている。

2、地域の優位性と特徴

①自然資源が豊かであること。原油生産高が全国2/5、木材が1・2、商品食糧が1・3を占めている。②北東アジア地域の腹地に位置付ける優位性が顕著であること。南は華北、華東を繋ぎ、中国三大経済圏の中枢となる天津浜海新区と隣接する。東北はロシア、北朝鮮と隣接し、東は日本と韓国を臨んでいる。③工業基礎が豊富であること。鉄鋼の産量が全国の1・8、造船の1・3、自動車の1・4を占めている。④人材優勢も目立っていること。各種専門技術関連の人材を210万持っていて全国の10%を占めている。⑤経済基数が次第に増加であること。2005年東北三省GDPは17,140.7億元、全国同期の9.4%を占める。2006年1-9月、遼寧、吉林、黒龍江省のGDPはそれぞれ13%、13.7%、11.6%の増長を遂げた。

3、旧工業基地の形成

1953年から1965年にかけて東北旧工業基地の大規模建設の時期であった。中国の社会主義建設の開始によって、東北は独特な資源基礎、工業基礎、社会基礎、地縁基礎、思想基礎の全体優勢で工業基地の候補と選ばれた。相対的な完備の地理単位として東北地区は土地が広くて、資源が豊かで、重工業を発展させるためのエネルギーを始めすべての素材が揃う。当時、鉄の貯蔵量が全国の1・4、石油が1・2、石炭が9%、林業面積と林業覆い率が30%以上、耕地が1・5を占めた。
 日本とロシアの植民地統治の影響で、東北地区の重工業ウェイトが割合に高く、石炭、発電、鋼材、セメントなどの鉱工業が整って、相対完備の工業基盤を持っている。また、中国一番先に開放された大行政区としては社会改革が徹底的に進められ、平和の後方が東北旧工業基地の建設により良い条件を提供したと言える。東西陣営に分けられる米ソ冷戦構造も東北旧工業基地の建設に良い地縁環境を提供し、社会主義陣営のパートナーのソ連、北朝鮮、モンゴルとの隣接も東北発展に安全な地縁環境をもたらした。ソ連からの156件の援助項目の57件が東北地区に置かれたのはその要素もある。

二、東北振興戦略提出の国内外背景

 建国後の二回に渡る五カ年計画の建設によって、東北地区は鉄鋼、機械、有色金属、化学などの製造業、石炭、電力、石油などのエネルギー業、飛行機、船舶、武器装備など装備製造業を代表する割合完備の工業基地を形成された。「共和国の長男」として、朝鮮戦争、全面的にソ連に学ぶ過程において、中国の現代化への実現に多大な貢献を果たした。
 改革開放の敢行、特に中国式の社会主義市場経済の導入によって、前世紀80、90年代から、東北地区における長期に形成された計画経済の構造的体制的な矛盾が現われ、企業破綻と従業員レイオフを標しとする「東北現象」及び
農民の増収緩慢、農業効率低下を標しとする「新東北現象」が相次ぎ出現し、東北の旧工業基地としての地位が脅威されただけでなく、中国の新型工業化の道と自国の重工業方向の選択にも影響が出てくる。

1、国内背景

①地域発展の計画按配と共同歩調及び新型工業化

 建国後の旧工業基地の歴史から見ると、国際関係の変化に伴って、中央政府は形成された東北地区への投入を次第に減少させる。第三次と第四次五ヵ年計画期間中に、国際情勢の激変に伴い工業重心を内地と「大三線」 に移転させた。
第六次と第七次五ヵ年計画期間中投資の重心を沿海地区にシフト・傾斜し始めた。また、同地域への開放に伴う財税制、貸し付け、外資誘致、金融などの優遇政策のお陰で、東南沿海は東北地区を遥かにリードし、両地域の発展格差も従って大きくなりつつある。特に、国有企業の比例の高い悩みと東北旧工業基地の資源枯渇と転換が大きな社会と現実問題となる。2002年東北三省のGDP総計は南の広東省の60%しかなかったことを考えて、地域間の格差の非均衡がもう心配されるほど深刻された。地域間の発展と貧富の格差を是正することはすでに直面しなければならない国策レベルの問題となる。

②南北呼応、東西相互依存と地域競争の加速

中央の地域協調発展への重視により各種地域発展及び振興策も相次ぎ打ち出した。20世紀70年代末期の深セン、珠海特区の提出後、断続的に1984年沿海14の都市部を開放させる東南沿海開放戦略、1992年の上海浦東開発戦略、2000年の西部大開発、2003年の東北振興、2005年の中部立ち上げ策、2006年の天津浜海開発区計画など地域均衡発展を図る戦略を提出した。それによって珠江デルタ、長江デルタ、環渤海経済地帯を代表とする多様な経済圏を形成させつつある。その中の東北振興は中国での規模の最も大きい重工業基地を形成させ、上述の経済圏へ軽工業品を加工する基礎設備を提供できて、その改造と調整は特別の意義を持っている。

2、国際背景

①WTO加盟後の進行加速と自国の重工業基地

改革開放から現在にかけて、中国は外資誘致を通して外資の最新技術と管理を利用して自国の重工業を発展させ、新型工業化の模索に著しい成果を収めた。だが、WTO加盟約束の後期のいろいろな挑戦に面して、いかにして加工大国、「政界低廉加工工場」の苦しい現実を変えられるのか。東北振興は一つの血路を開いて、中央が思い財政負担から開放され、その振興によって中国重工業化の現代化、情報化と国際化を牽引し、中国の第四の増強極に発展させる。

 ②意欲的に北東アジア競争への参入

 世界中の最後の局地経済圏として、北東アジア経済圏の経済規模、投資潜在力は一二を争う地域である。地域内の中、日、韓、ロ諸国は世界政治と経済の舞台での影響力が大きい。東北振興を生かして、中国の北東アジア参入の橋頭堡を作り上げることは東北地域自身の発展と振興に繋がるだけでなく、中国の北東アジア戦略乃至東アジア戦略にも関わっている。ダイナミックの東北発展がなければ中国の北東アジアでの発言力が弱まって、中国経済全体の持続そして調和発展がないと考えられる。

三、東北振興戦略の政策及び内容

東北振興は系統性の工程である。それは、工業分野の振興だけでなく、工業で社会全体な振興を牽引する調整と改造である。その意味で、東北振興はすぐに完成できる目先のきかない措置ではなくて、調整と改造しながら漸次に修正しなければ成らない長期戦略である。

1、戦略形成と相応の指導機構

東北振興戦略が2003年10月に正式に提出されたまでに、幾つかの動きがその信号を伝えたと考える。2002年3月に作成した「第十次五ヵ年計画」で「東北地区など旧工業を調整・改造、資源採掘型都市・地域は持続可能な詐産業を振興」という主旨を盛り込んだ。続いて、2003年3月公表された「政府工作報告」には東北旧工業基地の調整と改造を支持する道筋を示した。同年8月、温家宝首相が黒龍江省、吉林省を視察し、長春で東北旧工業基地を振興させる座談会を司会し、「東北振興を最優先させて、東北振興が改革の情勢に合わせて加速させるやり方を探る」の講話を発表した。それによって、「新遼沈戦役」と呼ばれる東北振興計画は幕が開けた。2003年9月10日、温家宝首相の司会で国務院常会議では「東北地区等旧工業基地振興戦略の実施に関する若干の意見」の素案を通過させた。翌月、「東北地区等旧工業基地振興戦略の実施に関する若干の意見」は国務院11号文献として批准され公表した。この文献の批准によって、同年12月、国務院東北地区等旧工業基地振興領導小組を創設させ、東北三省でも相応の旧工業基地領導小組が成立した。

2、中央レベルの重大政策

「東北地区等旧工業基地振興戦略の実施に関する若干の意見」の工業構造の調整、近代農業の発展、第三次産業の発展、資源枯渇型都市の経済転換、交通・インフラ建設などの12項目に渡る中央級政策の内向性格に比べて、2005年6月に国務院36号文献として批准された「東北旧工業基地を促進するにあたり、対外開放を一層拡大する若干の実施意見」は外国企業と資本が国有企業改革への参入などを奨励、技術発展の推進、金融・証券・保険・物流などのサービス業の対外開放、投資環境の整備と完全等の内容は外向性格が濃い。また
2006年6月打ち出された「国民経済と社会発展の第十一次五ヵ年計画綱要」の中では明確に東北振興という国策を継続させる意義と重要性を強調した。

3、東北三省独自の重大政策

 東北振興に関する国レベルの重大政策のほかに、東北振興の当事者である三省が自分の省の事情に相応しい一連の地方政策を打ち出した。遼寧省の場合では、「遼寧省旧工業基地振興規画」、「遼寧省国民経済と社会発展第十一次五ヵ年規画綱要」を続出させ、2010年までにGDP一人あたり27000元、現代装備製造業と重要原材料という二大基地の完成、沈陽経済区と大大連構想の実現、「五点一線」沿海開発戦略を提出している。吉林省は「吉林省旧工業基地振興規画」、「吉林省国民経済と社会発展第十一次五ヵ年規画綱要」によって、年間平均10%の増長維持、600件の大項目の推進、自動車・石油化学・農産品加工・現代漢方薬と生物製薬・光電子情報などの基地の建設を目標として挙げた。黒龍江省は「黒龍江省旧工業基地振興総体規画」、「黒龍江省国民経済と社会発展第十一次五ヵ年規画綱要」で、2010年までにGDP8000億元の実現、年間GDP平均増長9%の維持、装備製造業・エネルギー・食品・森林工業など6大産業群、基地の完成を提出した。
 東北三省の規画と綱要の共通点の一つは、各省がそれぞれの特色を強調する一方、三省の地域内での提携、相互補完、合作振興の認識が一致している。

四、東北振興戦略の段階的な成果と展望

1、段階的な成果

 ①197件の大型プロジェクトを始動

 2003年末、国務院東北地区等旧工業基地振興領導小組が第一回目、総金額610にのぼった大項目を始動させた。批准された項目の大半が国からの手形割引などの優遇政策を受けられる。地域分布に見ると、遼寧省が受けた項目が一番多くて、52項目、440億元になって全体の72.5%を占める。黒龍江省が37項目、112.7億元である。吉林省が11項目、57.3億元である。始動された項目は装備製造業、原材料加工、農産物加工など東北三省の優勢分野に集められる。
 2005年、97項目になる第二回目の大項目を始動させて、国家開発銀行と国家科学技術部などによる国際融資が主である。

 ②断続的に実行可能の政策を導入

 中央の一連マクロ政策の導入によって、2004年から実行可能の政策をどんどん批准された。2004年から率先で黒龍江省、吉林省で農業税の全面免除政策を実施し始め、以下の代表的な政策を導入した。遼寧省の次に黒龍江省、吉林省で社会保障の実験的工作を推し広めること。増値税改革の方向に沿って東北旧工業基地にある装備製造業など8業種が購入した新規設備の増値税金を差し引くこと。条件のある一部炭鉱、油田に適当に資源税の税金基準を下げること。所得税改革の方向に沿って、課税される給料税金基準の控除など企業側の負担を軽減させること。一部の資源型都市の転換項目への扶助。一部の旧工業基地都市における中央直属企業を対象に中央財政の支持で社会的な機能の剥離実験的工作を実施させること。国有企業が創設した集団企業の問題を解決すること。破綻条件に合致する旧工業基地の企業に対して全国企業M&A及び破綻工作計画に優先的に入れられること。商業銀行に更なる措置で不良資産の処理と貸し出した企業への未払い利子の自主免除をさせること。東北地区など旧工業基地にある重大装備科学研究、設計項目に必用な援助を行うこと。

1、第十一次五ヵ年計画の地域発展と東北振興の続行

2006年3月14日の第十回全国人民代表会議の閉幕によって、第十一次五ヵ年計画は正式通過され、未来五ヵ年の発展戦略として実施段階に入る。計画の中では各地域発展と東北振興の続行をそれぞれ強調した。

①地域発展の総体戦略の実施

西部大開発の実施を堅持し、東北など旧工業基地の振興を継続し、中部地区の立ち上がりを促進し、東部地区に率先の発展で豊かになる地域発展の総体戦略を強調し、地域協調と相互依存の機制を健全させ、合理的な地域発展の局面を形成させる。

②東北旧工業基地振興の継続

 規画では、東北振興の継続を強調する一方、旧工業基地の振興で経済と社会全般を牽引させる意図も随所現われる。主旨として「東北地区は産業構造の調整と国有企業改革、改組を加速させ、改革開放の進行で振興を実現させる。現代農業を発展し、食糧の基地建設を強化し、農業の規模化、基準化、機械化及び産業化を推し進め、食糧の商品率と付加価値を高める。先進的な装備、優良品の鋼材、石油化学、自動車、船舶と農産物の精密加工を建設し、ハイテク産業を発展させる。資源への開発補償機制と衰退産業への援助機制を建立し、阜新、大慶、伊春、遼源など資源枯渇型都市の経済転換の実験的な工作を掴んで、バラック地帯の改造と石炭発掘で沈下された地区の整理を良くする。東北東部鉄道回廊と省を跨る自動車運輸回廊などのインフラ建設を強化し、市場体系の建設を加速し、地域の経済の一体化を促進する。周辺国の経済技術合作を拡大する。黒い土地の水土流失と東北西部の砂漠への総合整備を強化する。東北以外の旧工業基地の振興を支持する。」を挙げられる。



 (この文は2007年2月15日、ERINA東京プロポーザルセミナーによる発表文である)

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