2007年01月18日

幸運な二度目の客員研究員―ー ERINA客員研究員着任の感想

       ERINA調査研究部客員研究員・中国黒龍江省社会科学院研究員  笪志剛

 4月の新潟は寒さを残しながらも少しずつ暖かさを増していった。日本海からの風は強かったが、そこにはもう春の香りが漂っていた。
 3月17日、飛行機が新潟空港に到着した瞬間、機内アナウンスの美しい声を聞きながら、「幸運な二度目の客員研究員」の機会を得、懐かしい日本にまた来ることができたという感慨が心の底から急速に湧きあがってきた。私にとってERINAでの客員研究員は、首を長くするようにずっと憧れ続けてきた夢であり、いままさにそれが実現したのだ。日本国内には、三菱総合研究所、大和総合研究所、日本総合研究所など知らぬ人のないほど有名な超一流のシンクタンクがある。日本の各分野のエリートから成るこれらの高級シンクタンクは、日本経済や社会の行方を予測し、その「脈を測って」おり、学術界の枢要を占める立場から、日本政府の決定をある程度左右できると考えてよい。ところで、筆者の目から見れば、これらに匹敵する地方の研究所が一つある。それどころではなく、ある面では、より大きな強みをもっているかもしれない。それは、新潟を中心とする北陸地方で活躍している環日本海経済研究所(ERINA)である。
 成立当初、ERINAの名はあまり知られていなかった。しかし、短期間のうちに日本海沿岸の学術界の枢要、情報の中心となり、北陸地方と北東アジア地域諸国との政治、経済、文化面などでの交流の掛け橋として、日本海沿岸諸県の国際化を促進する有名地方シンクタンクへと変身した。東北・北陸12県市及び企業の出資により支えられたERINAは、今や地域振興と経済発展に貢献する総合的研究所として内外で活躍している。
 1993年の設立当初から、ERINAは北東アジア地域の情報収集と現地調査に力を入れ、地方間の協力により当該地域の国際交流、さらに北東アジア圏の早期形成を促進し、国際貢献を目指している。十数年来、ERINAは地方企業への知的支援や、一年に一度周辺諸国の政官財界の人物が集まる「北東アジア経済会議」の開催、「ERINA REPORT」の出版、さらに具体的プロジェクトの提案や推進などに取り組んできた。情報提供・研究から政策提言・プロジェクト提案に至るまで、広範かつ多岐にわたる実験を試みてきたのである。
 「山は高きに在らず、仙有れば則ち名あり。水は深きに在らず、龍有れば則ち霊あり」という劉禹錫の「陋室銘」の中の名言の通り、見た目の規模は大きくないが、名声は北東アジアに馳せ渡り、日本の地方国際化や交流に貢献し、北海道と並び称される日本海側の交流拠点と位置付けられるERINA。私はかねてから、その独特の地位と研究成果に心惹かれていた。今回、東北三省社会科学院とERINAの学術協定に基づき、客員研究員という身分で着任したが、まったく「百聞は一見にしかず」、「一見は肌で感じるにしかず」の言葉通りだった。久しぶりに、親切さに感じ入り、また、視野を広げる感覚が体にしみわたる感じがした。2001年に京都大学で一年間の客員研究員生活を送ったが、研究所とは多少雰囲気が違った。今度の客員研究員生活は、新鮮感いっぱいのスタートとなった。まだ1ヶ月ではあるが、意欲や希望に満ちた日々を過ごしている。特に、北東アジア地域における多国間協力、そして経済圏の早期実現への強い願望については、眼前にその姿を現すようであり、ますますその魅力に惚れ込んでしまった。
 ERINAの魅力はさまざまあるが、特に感じたことを三つ挙げたい。
国際的な職場環境
 今まで20回以上の訪日で、いろいろな大学や研究所を見学した際に、外国人の姿を見ることは少なくなかった。しかし、ERINAほど国際化が進んだ研究所は初めての体験だ。研究所の構成だけ見れば、もはや「北東アジア大家庭」ではないかと錯覚するほど多国化している。日本人はもちろん、北東アジア地域に属するロシア、中国、韓国、モンゴルからの研究者が何人もいるほか、研究所の幹部になっているロシア人もいる。それぞれ違う国から来ていながら、北東アジアの地域協力を促進するという共同理念の下、お互いに国家間の偏見を捨て、本音をぶつけ合い、学術と実務提携の立場から協力するという雰囲気がそこにある。周囲の席から、違う言葉、違う国との電話の声が聞こえてくるたびに、もしかしてこれは国際化あるいは地域経済一体化が具現化した姿、はたまた未来の北東アジア・東アジア共同体の学術分野での縮図ではなかろうかと錯覚し、その世界に魅入られてしまうのである。
前向きかつ濃密な学術的雰囲気
 こんなことは当たり前だと考える人もいよう。もともと、日本では怠け者を養うことはないのだと。とは言え、ERINAにおける学術的雰囲気には独特な面があることを紹介したい。一部の研究所では、研究内容の評価が難しいため、過大あるいは過小評価が世に広がってしまっている。それに対し、ERINAは北東アジア全体の研究を目指すと同時に、ロシアのエネルギー問題と中国の東北地区、特に東北振興策関連の研究を重視し、当該分野で相当な成果を挙げており、中ロ両国政府からも評価されている。ここ十数年、ERINAは「北東アジア経済白書」、「ERINA REPORT」など質の高い成果物を多数出版し、その多くは海外、特に中国東北地区で頻繁に引用され、引用率の高い雑誌として注目を集めている。吉田理事長のリーダーシップの下、ERINAは東北地区を始め各地に学術及び実務の両分野で膨大な人脈を持ち、国や省を跨る重要な会議やプロジェクトの運営にあたっては、かけがえのない掛け橋の働きを果たしている。
「半辺天」を占める女性の魅力
 ERINAのもう一つの特色は、女性の研究員や事務スタッフの比率が高く、しかも勤勉であることだ。研究最前線、図書管理、パソコン保守など、それぞれの場で活躍している。女性が「花として飾られる」ことが多い日本にあって、ERINAの女性達は特別な存在であり、別風景の窓を開けたような気分にさせてくれる。それは、日本政府が推進する「男女共同参画」の主旨の現れであるとも言える。女性が持つ熱情、勤勉、優しさといったものの裏に決して隠れてしまうことがない冷静、知的、博学などの面に触れるたび感銘を受ける。同時に、少子高齢化の進む日本で、いかにして女性の智恵を活かして日本経済の振興と社会の進歩に結びつけるかという厳しい課題も痛感した。
 4月は新しい年の開始にあたり、運よく歓送迎会に参加できた。名残惜しい別れの寂しさと新スタッフを受け入れる嬉しさが交わる雰囲気のなか、研究所もこれからの発展の再スタートとチャレンジの時期を迎えている。北東アジアの発展に微力ながら貢献し、研究所の各種資源を最大限発揮し、政官財各界と提携して、ERINAが日本海に昇りつつある朝日とともに新たな輝きを迎えることを確信している。
 朱鷺メッセ12階にある研究所の明るい窓ガラスを通して、港の輝かしい夜景を楽しみながら、自分がこのグループの一員として溶け込んでいくことに誇りを感じている(原文は日本「東方時報」掲載)。

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Posted by 虎ちゃん at 17:55│Comments(0)日記・雑感
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