2007年01月18日

長春の日系自動車工場-トヨタ長春工場を中心に-

                               
        ERINA調査研究部客員研究員・中国黒龍江省社会科学院研究員  笪志剛


 東北三省で緑の最も多い都市・長春は、トウモロコシと大豆の都市として全国に知れ渡るだけでなく、光電子や自動車産業も有名だ。特に自動車産業は長春市の基幹産業となり、2003年の自動車関連工業生産高1,200億元は、同市の一定規模工業値全体の80%を占めている。自動車産業関連従業員は15万人、国内自動車販売のシェアが14.6%で、700社が3,000種以上の部品を製造しており、自動車開発、生産、販売の中心となりつつある。東北三省における長春市の自動車産業の優勢が顕著であり、特に東北振興政策を遂行する過程で、長春市の自動車産業を発展させることはすでに吉林省政府の戦略的な配置となっている。
 長春にある中国第一汽車集団公司(一汽/FAW)は、中国自動車業界の中でも最大規模で最多車種を揃える生産・開発基地であり、生産量も中国全体の5分の1を占めている。今後4年間で、同公司は年間生産200万台、内120万台を長春及び周辺で製造し、長春は世界5位の自動車生産都市となると見込んでいる。
 さすがは自動車都市、長春では至る所に自動車、自動車関連の合弁、独資外資系企業が並んでいる。2006年5月、長春で開催された「日中経済協力会議-於吉林」に参加して、半年ぶりの長春にこのような印象を持ち、その後、現地の吉林大学の友人の斡旋で、長春に進出したいくつかの日系自動車工場を見学して、そのイメージをさらに深くした。
 5月24日、吉林大学東北アジア研究院政治学研究所副所長の沈海涛氏の手配で、私たちは一汽とトヨタ自動車が合弁で創設した一汽豊田(長春)発動機有限公司と長春豊越公司を見学した。また、この見学の前には、会議の手配で日中東北開発協会訪中団とともに、長春経済技術開発区にある光洋精工、伊藤忠商事、一汽富奥汽車零部件有限公司が提携する一汽光洋転向装置有限公司を見学した。
 一汽光洋は1996年12月創設、資本金1,400万ドル、総投資額2,995万ドルで、中日双方がそれぞれ50%を出資した。1997年12月に工場が竣工し、翌年8月に開業式を行ったが、2002年にはさらに40%増築した。現在の従業員数は285人。主要製品は乗用車用のトランスミッション及びステアリングで、年間生産量は32万セット。主にFAW、FAW-VW、東風自動車、天津一汽などの自動車メーカーに部品を提供する。清潔な職場、真剣に作業している従業員、日本式管理など、すばらしい面を見学で確認できた。
 一汽豊田(長春)発動機公司の工場も長春経済技術開発区内にあり、広々としたエリアは衝撃的でさえある。案内役の孫守貴・総務課長の紹介によると、同工場の敷地面積は297,995平方メートルで、事務所、工場、鋳造エリアを分けるほか、6万平方メートルの部品供給のアルミ工場と13万平方メートルの空地(5年以内で開発予定)を持っている。該当工場は一汽とトヨタの間で2002年に締結した戦略的な合意によるもので、総投資額15億元、主要製品は新型V6エンジンであり、年生産能力13万台で、合弁期限は30年となっている。工場は2003年9月1日に着工し、2003年12月29日に中国国家発展改革委員会による認可を得て、2004年3月25日に会社が正式に成立し、2004年12月17日にV6エンジンのラインオフが行われた。このような流れから判断すると、この投資は典型的な「事実婚」であり、政治的な要素が大きい。さらに聞くと、当時の吉林省政府と長春市政府は、生産量世界2位、業界一の効率性、管理技術に優れたトヨタをどうしても誘致するため、他省に提携プロジェクトを移さないように長春に本社のある一汽に圧力をかけたということがあったそうだ。
 周辺の環境、労働力の資質、物流などの面から考えると、長春は理想的な選択肢とは言えない。コストコントロールを考えても、天津一汽豊田や広州豊田とは大きな距離がある。しかし、長春市政府は全力で700戸余りの農家を移転し、土地整備費を一切請求しなかった。また、部品供給面で日本側の不安を払拭し、生産を優先して手続きを後にするなど、諸条件で最大限の優遇政策を提供した。
トヨタの投資は開発区及び市政府のバックアップを得て、工場の主体建物は一年で竣工し、設備施工を経て一年半でオープンした。2004年末のエンジン生産ラインオフ後、2005年7月から8月にかけて、正式生産が始まった。2005年販売台数は45,000台余り、販売額は20億元で、利益は3,800万元となった。2006年は生産9万台、利益8,000万元になる見込みである。2~3年の過渡期を経て黒字が出る普通の自動車エンジン工場と違い、一汽豊田の長春工場はすぐに黒字になる珍しいケースと言える。これは一汽本社、四川トヨタ本社、在中国トヨタ各社の販売マーケット戦略の奏功と考えられる。コスト管理と削減により、同社は12億5,000万元の経費予算の内11億5,000万元しか使わず、ちょうど1億元を節約した。
 案内役の孫総務課長によると、同社は製造部、管理部、財務部、総務部と人事課、生産課、総務課など4部10課を設置している。トヨタ側は駐在員を8人派遣し、それぞれ製造部長、管理部長など重要なポストに就かせている。一汽側は11人の管理職を出した。2006年3月時点で従業員数は755人、その内、製造部、技術部、管理部がそれぞれ583人、76人、70人であり、同社の製造と技術の実力と重要性が際立っている。販売好調のため2005年10月から2シフト生産体制に変わり、1日約400台、月に約8,000台のエンジンを生産する。
 トヨタの新型V6エンジンは環境に優しく、二酸化炭素の排出基準もユーロIVレベルを満たしている。専有技術であるVVT技術を導入し、軽くて騒音と燃料消費の低いメリットを持っている。こうしたハイテクエンジンの工場だが、職場全体を見渡すと、トヨタの日本国内の自動化された職場と少し違っている。現地の安い人件費と中国国情を配慮し、市場の変化と顧客のニーズに応じた多品種、小規模の方針を導入しながら、必ずしも自動化にこだわってはいないということが印象的だった。現在、同社の製品は主にクラウン(皇冠)2.5L、同3.0L、レイツ(鋭志/マークX)、大赤旗(HG3)3.0Lに提供しているが、また別の型に提供する可能性がある。完成車は3年余りで淘汰されるが、エンジンは10年ごとに更新される。トヨタは心臓であるエンジンから周辺部品まで、改善と更新の努力を続けている。
今後の発展に関して、一汽豊田(長春)発動機有限公司は、従業員の力を合わせることを重視する一方、基礎からスタッフの養成にも力を注ぐ。トヨタの企業管理パターンを導入するなど、管理過程に日本の企業文化を融合している。しかし、雇用の多様化に伴い人員流動化の問題にも直面している。例えば、天津一汽豊田工場は欧米系の自動車会社より給与が安いため、一部の人員が引き抜かれた。天津と広州豊田では中堅スタッフの引き抜きも問題となったこともある。一汽豊田(長春)には従業員の引き抜きはあっても中堅スタッフの辞職はめったにない。しかし今後の課題として重視する必要があろう。人材養成として、同社は従業員へのエンジン組立技能訓練のほかに、日本を始め国内外への研修を実施し、2005年までに113人が日本、瀋陽、大連などで研修を重ねている。
 東北振興の進展による外資進出をめぐり、孫課長は自分なりの見解を説明してくれた。それによると、現在、中国中央政府は自動車関連のプロジェクトに対して15億元の最低投資制限を打ち出しただけでなく、ハイテク技術の有無も要求されている。一汽はトヨタとの合作を進めるため、巨額の一汽豊田天津の合弁を辞さなった。それによりトヨタと運命共同体となり、次の大きなプロジェクトの土台を築いた。それを促すために長春市政府は特別の優遇政策と誠心誠意の誘致運動を行った。一汽豊田(長春)発動機の早期着工、無事操業は、地元各級政府の積極的な姿勢が実を結んだものと評価された。

 長春豊越公司では、完成車の明るい光景が目に入った。開発区にあるエンジン工場と違って、同社は一汽本社2号門の入り口近くに位置し、自動車工場の中にある自動車会社のイメージが強い。同社の前身は2003年創立した長春一汽豊越汽車有限会社。同社は2005年7月、四川豊田汽車有限公司の資産購入によって双方それぞれ50%の株を持つ四川一汽豊田汽車有限公司(SFTM)が設立され、その子会社となった。従業員は400人余り。同社はSUV・ランドクルーザー10,000台、ハイブリッドカー・プリウス3,000台の年間生産能力を持ち、稼動以来、すでにランドクルーザー10,000台余りを生産した。
 熱心に案内してくれた同社の畢文鋒・人事課長によると、プリウスはトヨタの最新技術を結集した新鋭車種で、価格はまだ中の上だが、中国市民の消費能力の増加によってさまざまなメリットを享受できることになろう。日本の友人の話では、プリウスの海外生産は初めで、工場見学もなかなか難しいとのことであり、今回の見学とヒアリングは収穫が大きかった。
 最近の報道によると、低燃費のハイブリッドカーがガソリン価格上昇を背景に世界で需要を伸ばし、増産に動いている。主力のプリウスの5割増産を始め、2010年代初頭にはハイブリッドカーの生産を100万台まで増やす計画を打ち出した。また中国では現地生産システムの進化など日本国内では出来ない変革が起き、トヨタの海外自動車生産・販売の新たな展開を牽引するものと注目されている。畢課長の勧めもあってか、一日も早くプリウスを入手するのが筆者の新たな夢となっている。


 トヨタを始め日系企業の長春投資を考察すると、旧工業基地の振興策の実施、及び各省独自の地域発展戦略によって、外資の中国における北上スピードが加速され、東北への認識も次第に深まってきたのが分かる。外資の進出により、東北地域における自動車産業や設備製造業、石油化学などにおける優位性も次第に顕在化してくるであろう。長春が自動車産業を増大・増強させるのは歴史の必然であり、交通・運輸・設備製造工業体系を構築するとことはもちろん、国際的な自動車都市であるデトロイトに学び、長春はさらに走行機械工業基地を構築し、自動車工業の優位性を強化する必要があろう。V6エンジン工場、ランドクルーザー、プリウス、光洋ステアリングシステムなど、日系自動車企業の相次ぐ進出でこうした明るいビジョンが描かれていくことを、中国東北出身の一研究者として大いに期待している(原文は[ERINA REPORT]2007vol.73掲載)

図:プリウスの説明用車両

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Posted by 虎ちゃん at 11:47│Comments(0)視察・報告
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