2007年01月18日
図們江地域への投資を牽引する小島衣料
ERINA調査研究部客員研究員・中国黒龍江省社会科学院研究員 笪志剛
6月22~24日、図們江地域開発の中心地・吉林省琿春を視察した。日頃、黒龍江省社会科学院で勤務する筆者にとっては、ERINAの客員研究員に迎えられて実現した初めての訪問であった。中国の地図を見ても目立たず、東北にポツンとある小さい都市は、自ら足を伸ばし肌で感じてみると、活気とポテンシャルに満ち、辺境の町とは思われないほど魅力ある貿易の町でもあった。
僅か2日間の滞在だったが、琿春市政府の周到な手配で、まず同市の主要税関と「東方における第一の村」防川を見学した。「一目で三国を望め、犬の遠吠えが三国の辺境に伝わる」と言われる防川、ロシア向けの長嶺子税関、北朝鮮向けの圏河税関など、琿春の地政学的な優位性をうかがい知ることができた。しかし、琿春に最も筆者を引き寄せたのは、日本で目にした記事であった。それは、小島衣料が琿春へ進出、新たな日系投資のさざなみが起き、図們江地域開発ブームが再燃するかもしれない、という主旨であった。
小島衣料は、1952年に創業し、1979年に現在の株式会社としてスタートした。1991年、中国の湖北省黄石での美島服装有限会社の設立を契機として、小島衣料は大きな変貌を迎えた。二代目社長の小島正憲氏が、労働集約型の企業としてコストの高い日本における成功の可能性はゼロに近いと判断し、中国など新興地域への移転を加速する新たな戦略を打ち出した。黄石での合弁成功に次いで、上海美旭時装有限公司、上海桜島時装設計有限公司、友島上海紡績品有限公司、上海偉馳諮詢有限公司、株式会社ウィズビジネスサポートを設立した。
さらに筆者の目を引いたのが、2005年末の図們江地域における現地法人と系列工場の設立投資案件だった。地元の中国マス・メディアが東北振興政策の進展と外資の北上の兆しとして取り上げ、NHKなど日本のメディアも大きく報道した。報道では、同社が琿春の地政的な優位性、安価な土地と労働力に着目し、特に地元の日本語人材の存在を重視していると伝えている。「琿春は将来、大連と肩を並べ、中国東北地域のもっとも発展できる都市だ」と小島社長が自らそのポテンシャルを語っている。
琿春市辺境経済合作区2号区創業大街合作区にある標準工場群の小島衣料の現地工場を訪れた。工場に入ると、電話とFAXが鳴り続いている。入り口にある対外担当、事務、総務などのエリアの向こうに、職場の清潔で整然とした従業員の作業場面が目に入る。日本留学の経験を持ち、琿春市の外資系企業誘致局長を兼任している全成哲総経理の紹介によると、第1期の総投資額は150万ドル。5つの工場を開設する予定で、すでにそのうち3工場がオープンし、4番目の建設も着手し始めたところである。すべてが完成すると、生産・加工能力は年間120万枚の規模となる。現在の従業員数は367名である。
(写真1)小島衣料琿春工場の玄関
琿春のポテンシャルを望みながら、同社は琿春-ザルビノ-新潟を結ぶ日本海横断航路にも格別の関心と期待を寄せている。「わが社にとっては納期と物流がとても重要だ。物流は速さ。現在、完成品は大連経由で日本に送っているが、図們江輸送ルートが開通すれば、4~5日かかっているものを1~2日まで短縮できる。日本だけでなく、欧米への転送も早くなるはずだ」。図們江輸送ルートを巡る第2回琿春シンポジウムで小島社長はこう発言した。図們江輸送回廊が開通次第、第2期500万ドルの追加投資を行い、従業員3,000人、年間生産能力600万枚の規模を目指すという。
琿春へは韓国、日本、ロシアなど北東アジア周辺国を中心に外資が参入している。地元の朝鮮族の労働力と人材優勢を狙って韓国企業が24社進出し、日本企業は韓国に次いで12社が参入した(表1)。「小島衣料の投資は象徴的なものだ。今度この地を訪問するときには、中ロ朝三国国境地域の内陸物流と港湾地域開発プロジェクトの実施によって、図們江ルートは(ちいさな)堀も大きな道に変わっていることだろう」と、古い友達でもある琿春市の蔡旭陽副市長は近い将来の琿春市の対外合作を語った(原文は[ERINA REPORT]2006vol.72掲載)。
図:小島衣料琿春工場の内部の様子

Posted by 虎ちゃん at 17:09│Comments(0)
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