2009年06月24日

「第2回東北アジア地域協力発展国際会議」での吉田進様の発言

日中区域間協力と黒龍江省の対日経済·貿易協力戦略の一層強化について

                      財団法人環日本海経済研究所理事長    吉田 進


2008年9月に発生した金融危機は、各国が自国の経済構造の問題点を明確にし、その解決を図る契機を作り出した。
世界的な規模での金融協議の場が、これまでの7カ国首脳会議(G7)から20カ国・地域首脳会議(G20)に移行した。
中国は、輸出による経済成長から国内需要を満たす経済構造への切り替えを行った。4兆元の国内需要喚起のための資金投入、特に家電製品の農村への販売は、国内の国民収入の拡大(一人当たりGDP=3,000ドルの達成)と呼応し、三農問題の解決に向けても寄与した。
現在、中国経済に対する地域寄与度は、従来の沿海地方から内陸部へ移っている。
中国の東北地方では、国内的には遼寧省と並んで黒龍江省、吉林省が重要視され、対外経済関係では、国境を接しているロシアばかりでなく、北東アジア構成国(特に日本と韓国)との協力発展に重点が移されている。
1. 日中貿易の実績と傾向
日中貿易は、輸出入総額が2002年に、日本から中国への輸出が2005年に、中国からの日本への輸入が2007年にそれぞれ1,000億ドルを超過した。
日本の輸入に占める中国の比重は、2002年に18.3%になり、米国を追い越して第1位に、輸出入総額では2007年に17.7%を占め第1位になった。
2. 黒龍江省の対外貿易、対日貿易
黒龍江省の2007年度の輸出額は122.6億ドル、輸入額は50.4億ドル、合計で173.0億ドル、72.2億ドルの入超であった。
黒龍江省の対日輸出額が省全体の輸出額に占める比重は2.25%(全国は8.38%)、2.8億ドル、輸入額は6.3%(全国は14.01%)、3.2億ドルと、いずれも全国の比率より低い。商品構成によっては、今後、拡大する潜在的な可能性がある。
2007年の外資の投資額(契約ベース)は242件、29.6億ドル、実行ベースは21.7億ドル。2000年に投資額(契約ベース)が10億ドルを超過し、その後も毎年増えている。しかし、残念ながら日本の資本進出は16社とわずかである。
そのうち大企業は、三菱自動車のエンジン工場と森永乳業の2社だけである。
3.今後の展開と課題
今後の日本との経済・貿易関係を発展させるためには、黒龍江省との関係強化を求めている日本の諸機関・関係者との連携を強化する必要がある。
それにはまず、日中東北開発協会との協力が大切である。同協会は、これまで、大連開発区の日本工業団地の立ち上げ、東北3省・内モンゴル自治区との日中経済協力会議の組織・開催、中国東北地方からの代表団の受け入れ、各省の商談会への協力を行ってきた。
次に友好県・道との協力(新潟県、北海道)である。新潟県は黒龍江省と友好県省提携をてすでに26年になる。新潟市とハルビン市は友好都市の提携をして30周年を迎える。
行政組織間での人事交流、社会・文化交流では一定の歴史があり、経済協力分野でも三江平原の龍頭橋ダムの建設、ハルビン市のごみ焼却炉、廃水処理などではお互いの協力関係ができあがっている。
黒龍江省から日本に留学あるいは就職している人たちの間で、文化交流を進めるNPOが組織されつつあり、そことの連携・協力も大切である。
(1) 対日輸出入商品の分析と拡大策
黒龍江省の輸出産品の研究を進め、対日輸出拡大策を検討する。農産物、石炭、加工木材・家具、機械部品などが対象となる。
(2) 企業誘致
日本の企業誘致には、日本の三大銀行との協力が不可欠である。すでに進出している企業が良い業績を上げ、他の企業を誘致する原動力になる必要がある。
黒龍江省には旧国営企業が多いので、日本の企業との合弁の場合には、事前に旧国営企業の負債処理を行わなければならない。
(3) 農業
① 日本では、無農薬・有機肥料栽培野菜の供給が歓迎される。
問題は、後述する輸送ルートと検査システムの確立にある。
② 新しい枠内でのメイズ(とうもろこし)、大豆などの供給の可能性
従来の生産物は輸出禁止となっている。その枠外で契約生産はできないものか。
③ 農場の共同経営の可能性
現在、日本では農業株式会社の設立の動きがあり、新しい可能性が生まれてきている。日本の個人農には資金がなく、農業協同組合は製品の販売ルートに特化しているので、生産分野での協力は難しい。
④ 食品加工業との協力
例えば、米粉、真空パック製品などの輸入が可能である。
⑤ 新潟との協力
三江平原を巡る協力を基盤に、新たな農業協力を図る。
(4) 環境対策
新潟市とハルビン市とのこれまでの協力には、廃水処理、ごみ処理(焼却炉)などがある。新しい課題として小規模発電、廃水処理、牛糞の処理などがある。
(5) 輸送回廊の開拓
黒龍江省は綏芬河-ウラジオストク・ナホトカ港ルートの開発と定着にかなりの力を入れてきたが、日本側では束草-新潟-トロイツァの航路を開設するため努力してきた。この航路が今年の6月にも就航する予定で、綏芬河-トロイツァ港のコンテナの自動車輸送、そして将来的には、専用列車輸送を組織することが大切である。まずは、農産品、鶏肉、木材製品、大理石、稲ワラなどの輸送が考えられる。この輸送ルートの確立には、ロシアのPrimoravtotrans、Berkutなどが協力してくれるであろう。
(6) ロシア、中国との協力
黒龍江省の地理的優位性を生かして、ロシア、日本との3カ国合弁会社の設立を考えていきたい。そこで扱うのは、加工業、例えば木材加工が望ましい。
インフラプロジェクトでは、ブラゴベシチェンスク-黒河の大橋建設への協力などが考えられる。日本の四国-本州大橋の経験を紹介し、資材の供給などができる。これに国際協力銀行の融資を結合させるのが望ましい。
電力供給の可能性も検討すべきである。ロシアのブレア水力発電所の余剰電力、建設計画中の第2ブレア水力発電所、潮力発電所などの電力を、将来、中国や中国・北朝鮮経由で韓国に供給する可能性は十分ある。
そのために必要な技術・製品を、プロジェクト・ファイナンスにより輸出する。いずれも北東アジア経済発展のためのインフラ構築に寄与する。
(7) 学術交流
ERINAでは社会科学院から定期的に研究員受け入れを行っている。また、新潟にはハルビン工科大学、ハルビン学院、黒龍江大学などとの強い協力関係がある。今後もその発展のため双方が努力することが望まれる。
(8) 人材交流・観光
これまで日本に留学(CIRなど行政の短期交流を含む)した人々の活用や、黒龍江省と新潟の有力な観光・旅行会社の交流強化、特に高校生の修学旅行での交流などがさしあたっての課題である。
4.今後の改善すべき点
以上を実行する中で改善すべき点は次のとおりである。
 日本における発信基地:黒龍江省事務所の設置
 日本における黒龍江省の紹介が多省と比べて少ないこと
 企業進出した日本企業に対する協力機関:24時間クレーム受付事務所の設置
中国に進出した企業は、原料の現地調達、輸送、労務、税金問題などの様々な問題で苦労をしている。これらの問題解決のためにヒントを与え、適切な機関・企業を紹介する役割を担う組織が必要とされる。
また、次の点についても、継続審議の場を設けるべく協議したいと考える。
 三江平原の協力について、黒龍江省水利庁、黒龍江省環境保護庁、黒龍江省農業委員会の合同協議を行い、新潟との協力の方向を明確にする。
 日中経済協力会議は、現在、5年に1度ハルビンで開催されるのみなので、もう少し頻繁に黒龍江省で協力会議を開く必要がある。国際経済貿易商談会開催の際に小規模の日中協力会議を開くことも考えられる。



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Posted by 虎ちゃん at 22:03│Comments(0)友人の大作
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