2007年01月19日
東瀛の恋――ある日本の女の子へ捧げる「詩]
ERINA客員研究員・黒龍江省社会科学院経済研究所研究員 笪 志剛

(一)
すれ違いざまに目にした微笑
黙々としたあなたの視線
一挙手一抬足の優雅
見守らせてくれ
東瀛の娘
(二)
膝を交えて眺めた喜び
にこにこしていた表情
朗らかな楽しい仕草
恋は思案のほか
東瀛の娘
(三)
スクリーンの中の暗闘
隣座りで互いの遠慮
台詞以外の瞑想
近づかせてくれ
東瀛の娘
(四)
夜のとばりに包まれている駅
ひっきりなしに通過している人
バス発車のとどろき
呼ばせてくれ
東瀛の娘

(一)
すれ違いざまに目にした微笑
黙々としたあなたの視線
一挙手一抬足の優雅
見守らせてくれ
東瀛の娘
(二)
膝を交えて眺めた喜び
にこにこしていた表情
朗らかな楽しい仕草
恋は思案のほか
東瀛の娘
(三)
スクリーンの中の暗闘
隣座りで互いの遠慮
台詞以外の瞑想
近づかせてくれ
東瀛の娘
(四)
夜のとばりに包まれている駅
ひっきりなしに通過している人
バス発車のとどろき
呼ばせてくれ
東瀛の娘
2007年01月19日
小肥羊ジャパン―中国飲食業の対日投資の新しいシンボル
ERINA調査研究部客員研究員・中国黒龍江省社会科学院研究員 笪志剛
1999年に「走出去」戦略を打ち出した中国は、経済の高度成長、総合国力の増強、外貨準備高の大幅増加、資源不足の圧力などによって企業の外国投資が次第に増加し、FDI先進国へ邁進しつつある。中国商務部ウェッブサイトのデータによると、2005年の中国ノンバンク対外投資総額は122.6億ドル、2006年前半が64.4億ドル、2006年前半までの累計対外投資総額は634.4億ドルである。
対外投資全体の中で対日投資は出遅れたが、緩やかな成長を見せ、この2、3年はさらに拡大する兆しがある。2005年末までの中国企業(香港をも含む)の対日投資総額は26.87億ドルで、10年前の1995年までの11倍となった。投資分野は製造業、機械、ソフト、電子、サービスなどに及んでいる。2001年にハイアールが三洋電機との共同出資会社を設立して製品を一挙に秋葉原に進出させたこと、上海電気集団がアキヤマ印刷機器製造を買収して日本との技術的な距離を18年間縮小させたこと、広東三九集団が東亜製薬の買収によって医薬製造と流通分野に参入できたことなどの一連の合併・買収案件以来、2006年前半は、無錫尚徳太陽能電力によるMSK買収、中国飲食業チェーン大手の内蒙古小肥羊餐飲連鎖有限公司(以下小肥羊)が日本のIT企業と提携して株式会社小肥羊(シャオフェイヤン)ジャパン(以下「小肥羊ジャパン」)を設立して東京の飲食業に進出したことが話題となった。前者は中国企業の対日投資額最高の3億ドルを記録し、後者は小肥羊というブランドを利用して中国伝統の火鍋(しゃぶしゃぶ)ブームを巻き起こした。
2006年10月21日、筆者は小肥羊ジャパンの日本側パートナーであるウェブクルーを訪ねた。なぜIT企業が小肥羊と提携して飲食業に進出したのか、その経緯、出資形態、中日双方の市場の魅力、可能性、今後の展望、経営戦略などを聞くためである。小肥羊ジャパン投資事業部ディレクター小野田美香氏、投資事業部マネージャ布目由子氏が対応してくれた。
株式会社ウェブグルーは平成11年10月、愛知県春日井市に設立した資本金1,000万円のIT系企業である。平成16年9月東京証券取引所マザーズに株式上場、平成17年12月第三者割り当て増資の実施により41億3,581億円に増資し、ウェブクルー及び連結子会社7社、関連会社5社から構成されている。
小野田氏によれば、ウェブグルー社はこれまでに飲食業の経験はなく、青山浩社長が上海訪問で小肥羊火鍋を食べ、これなら日本人に受けると考え、中国側に打診した。小肥羊側も米国、カナダ、シンガポール、香港、台湾で支店を開設し、数年前から日本での支店開設を視野に入れていた。1年間の訪問と接触を経て、中国側62.5%、日本側37.5%の共同出資で2,500万円を投下し、東京で第1号店を出店することに合意し、2006年7月20日、株式会社小肥羊ジャパンの登記を行い、2006年9月28日、第1号店が東京渋谷センター街にオープンした。
小肥羊は中国人にも在日華人にも馴染みの深いブランドで、4年連続中国飲食業界ランキング100強企業で第2位になっている。7年前に内モンゴルの包頭(パオトウ)から誕生した小さなしゃぶしゃぶ店は、薬味を使わない特色だけでなく、ラム肉を始め数十種類の極上強壮剤香辛料を用い、「医食同源」の健康・美味・自然の享受を根本にし、「品質を本、信頼を至上、偉業を固め、必勝を千年」という企業精神を受け継ぎ、高品質の飲食・サービス提供を通して、わずかな間で中国における最大の民族飲食集団として内外に名声を馳せた。これまでに「中国知名商標」、「中国餐飲百強ランキング2位」、「中国500強企業」、「中国成長企業百強チャンピオン」、「中国有名しゃぶしゃぶ店」、「中国もっとも影響力のある財富企業」など30余りの表彰称号を獲得。現在は完全子会社3社、支社5社、物流配送センター1社、香港、マカオ、台湾を含む直営・特許経営店700以上、傘下店舗を中国32省、直轄市、自治区に展開する飲食界の最大手グループとなっている。 近年は「走出去」に応じ、米国カリフオニア、カナダ・トロント、香港、シンガポールなど海外の支店を続々設立し、国際化展開している。
小肥羊ジャパンの看板となるラム肉には、良質なたんぱく質、多くの必須アミノ酸、鉱物、ビタミンが含まれている。元気を補い、血の気を良くする温を補う品という「本草目録」の記載があり、肉質が繊細で消化に良く、体の免疫力を高め、「医食」を重視する高齢化社会の日本に歓迎されると判断しての進出である。
筆者は二人の熱心な案内により、渋谷センター街の1号店へ向かった。周りに中国、タイ、ベトナム、インドの料理看板が目に映る中、小肥羊の看板が日本で根をおろす気概を示しているかのようである。
入り口脇にあるモンゴル衣装のマネキンが「草の低さに吹かれて見える牛羊」の詩句を思い出させ、内装も民族情緒が際立っている。140人収容の規模は提携への信頼と未来への自信であろうか。今年末までに日本5号店、数年後には日本全体で200店舗の目標を掲げている(原文は[ERINA REPORT]2007vol.74掲載)。
図:東京渋谷センター街にオープンした小肥羊第一号店様子
1999年に「走出去」戦略を打ち出した中国は、経済の高度成長、総合国力の増強、外貨準備高の大幅増加、資源不足の圧力などによって企業の外国投資が次第に増加し、FDI先進国へ邁進しつつある。中国商務部ウェッブサイトのデータによると、2005年の中国ノンバンク対外投資総額は122.6億ドル、2006年前半が64.4億ドル、2006年前半までの累計対外投資総額は634.4億ドルである。
対外投資全体の中で対日投資は出遅れたが、緩やかな成長を見せ、この2、3年はさらに拡大する兆しがある。2005年末までの中国企業(香港をも含む)の対日投資総額は26.87億ドルで、10年前の1995年までの11倍となった。投資分野は製造業、機械、ソフト、電子、サービスなどに及んでいる。2001年にハイアールが三洋電機との共同出資会社を設立して製品を一挙に秋葉原に進出させたこと、上海電気集団がアキヤマ印刷機器製造を買収して日本との技術的な距離を18年間縮小させたこと、広東三九集団が東亜製薬の買収によって医薬製造と流通分野に参入できたことなどの一連の合併・買収案件以来、2006年前半は、無錫尚徳太陽能電力によるMSK買収、中国飲食業チェーン大手の内蒙古小肥羊餐飲連鎖有限公司(以下小肥羊)が日本のIT企業と提携して株式会社小肥羊(シャオフェイヤン)ジャパン(以下「小肥羊ジャパン」)を設立して東京の飲食業に進出したことが話題となった。前者は中国企業の対日投資額最高の3億ドルを記録し、後者は小肥羊というブランドを利用して中国伝統の火鍋(しゃぶしゃぶ)ブームを巻き起こした。
2006年10月21日、筆者は小肥羊ジャパンの日本側パートナーであるウェブクルーを訪ねた。なぜIT企業が小肥羊と提携して飲食業に進出したのか、その経緯、出資形態、中日双方の市場の魅力、可能性、今後の展望、経営戦略などを聞くためである。小肥羊ジャパン投資事業部ディレクター小野田美香氏、投資事業部マネージャ布目由子氏が対応してくれた。
株式会社ウェブグルーは平成11年10月、愛知県春日井市に設立した資本金1,000万円のIT系企業である。平成16年9月東京証券取引所マザーズに株式上場、平成17年12月第三者割り当て増資の実施により41億3,581億円に増資し、ウェブクルー及び連結子会社7社、関連会社5社から構成されている。
小野田氏によれば、ウェブグルー社はこれまでに飲食業の経験はなく、青山浩社長が上海訪問で小肥羊火鍋を食べ、これなら日本人に受けると考え、中国側に打診した。小肥羊側も米国、カナダ、シンガポール、香港、台湾で支店を開設し、数年前から日本での支店開設を視野に入れていた。1年間の訪問と接触を経て、中国側62.5%、日本側37.5%の共同出資で2,500万円を投下し、東京で第1号店を出店することに合意し、2006年7月20日、株式会社小肥羊ジャパンの登記を行い、2006年9月28日、第1号店が東京渋谷センター街にオープンした。
小肥羊は中国人にも在日華人にも馴染みの深いブランドで、4年連続中国飲食業界ランキング100強企業で第2位になっている。7年前に内モンゴルの包頭(パオトウ)から誕生した小さなしゃぶしゃぶ店は、薬味を使わない特色だけでなく、ラム肉を始め数十種類の極上強壮剤香辛料を用い、「医食同源」の健康・美味・自然の享受を根本にし、「品質を本、信頼を至上、偉業を固め、必勝を千年」という企業精神を受け継ぎ、高品質の飲食・サービス提供を通して、わずかな間で中国における最大の民族飲食集団として内外に名声を馳せた。これまでに「中国知名商標」、「中国餐飲百強ランキング2位」、「中国500強企業」、「中国成長企業百強チャンピオン」、「中国有名しゃぶしゃぶ店」、「中国もっとも影響力のある財富企業」など30余りの表彰称号を獲得。現在は完全子会社3社、支社5社、物流配送センター1社、香港、マカオ、台湾を含む直営・特許経営店700以上、傘下店舗を中国32省、直轄市、自治区に展開する飲食界の最大手グループとなっている。 近年は「走出去」に応じ、米国カリフオニア、カナダ・トロント、香港、シンガポールなど海外の支店を続々設立し、国際化展開している。
小肥羊ジャパンの看板となるラム肉には、良質なたんぱく質、多くの必須アミノ酸、鉱物、ビタミンが含まれている。元気を補い、血の気を良くする温を補う品という「本草目録」の記載があり、肉質が繊細で消化に良く、体の免疫力を高め、「医食」を重視する高齢化社会の日本に歓迎されると判断しての進出である。
筆者は二人の熱心な案内により、渋谷センター街の1号店へ向かった。周りに中国、タイ、ベトナム、インドの料理看板が目に映る中、小肥羊の看板が日本で根をおろす気概を示しているかのようである。
入り口脇にあるモンゴル衣装のマネキンが「草の低さに吹かれて見える牛羊」の詩句を思い出させ、内装も民族情緒が際立っている。140人収容の規模は提携への信頼と未来への自信であろうか。今年末までに日本5号店、数年後には日本全体で200店舗の目標を掲げている(原文は[ERINA REPORT]2007vol.74掲載)。
図:東京渋谷センター街にオープンした小肥羊第一号店様子

2007年01月19日
旧工業基地振興に伴う東北地区の対外開放の現状及び展望
ERINA客員研究員・黒龍江省社会科学院経済研究所研究員 笪 志剛

中国中央政府が東北振興戦略を打ち出してからもう3年あまり経った。その間、東北地区において経済の快速成長、対外貿易の大幅増加、外資誘致の記録更新などの新局面を迎えてきた。同時に、東北振興をさらに加速させるために中央政府はこの3年間、「東北地区等旧工業基地振興戦略の実施に関する若干の意見」(国務院11号文献)、「東北旧工業基地を促進するにあたり対外開放を一層拡大する若干の実施意見」(国務院36号文献)を含めた優遇政策を続々と打ち出した。それによって旧工業基地振興を背景とする東北地区の対外開放は新たな発展の勢いが現れ、東北地区は珠江デルタ、揚子江デルタ、環渤海地区に次ぐ第四の増長極としての議論もますます活発化かつ現実化してきた。本稿は上述の旧工業基地振興策の実施及び関連の開放深化政策の提出による該当地区における経済発展、対外貿易、外資誘致、対外投資などの最新状況、新たな変化及び問題点をめぐり、東北地区における改革開放と経済発展のポテンシャルないし周辺国及び地区との協力の新たな態勢を探る。
1. 東北振興戦略と更なる対外開放
2003年、国民経済全体の協調発展と中国工業体系の質を高めるため、同時に東北地区の持続的発展と社会的安定を維持して北東アジア地域協力に参加するために、中国中央政府は「中共中央・国務院の東北地区等旧工業基地振興戦略の実施に関する若干の意見」(国務院11号文献)を打ち出し、東北振興戦略が正式にスタートした。「意見」は東北地区の全面的な持続可能発展のためにマクロ優遇政策の決定と関連の資金援助を行い、同年11月に批准された調整と改造項目は100余、総額610億元、同時に行政窓口として国務院東北地区等老工業基地調整改造指導小組弁公室を成立した。また、増値税と企業所得税の改革、国債と特定資金項目の確定などの実施によって、東北振興は「全面対外開放」、「地域経済一体化」、「人材戦略」という三大戦略を象徴とする全面始動段階に入りつつある。2004年、2005年の実質的な作業と各種項目の確実な策定という段階を経て、2006年に入ってから東北旧工業基地振興戦略の効果が現われ始めた。特に、中央政府が東北地区の発展実情に基づいて2005年8月に「東北旧工業基地を促進するにあたり対外開放を一層拡大する若干の実施意見」(国務院36号文献)を策定し、対外開放を旧工業基地改造実現の重要手段と内容に位置付け、「開放で改革を促進し」、「外資誘致の質とレベルを高め」、「地縁のメリットを発揮し」、「雇用を優先する」という四つの面から対外開放を東北振興と結びつけた。また、科学発展観と人本主義に基づいて、「第十一次五カ年規画」で東北旧工業基地に関して実際に相応しい企画を策定し、東北地区の対外開放は新たに歴史的なチャンスを迎えている。
(1)東北地区対外開放の新しい特色
①工業を主体とする全面振興
全体的に見れば、東北の現代工業開発の歴史は1世紀ほどさかのぼり、民族工業の発端、半植民地と植民地の工業開発を経て、真の工業基地を形成したのは建国後の「第一次五カ年計画」と「第二次五カ年計画」時期だった。計画経済時代において、東北は全国経済の牽引役であったが、「東北現象」などが東北の発展に問題を積み重ねてきた。それに対して中央政府は「第七次五カ年計画」と「第八次五カ年計画」時期に前後して、「企業の三角債務の解決」、「現代的な企業制度の建立」、「国有企業の三年間難関挑戦」、「社会保障制度の構築」などの優遇政策を打ち出してバックアップしたが、単一的な政策で、組み合わせと協調性を欠けたため、効果が上がらなかった。今度の振興策は前例の教訓を受け、鉄道、高速道路、港湾などインフラ整備を強化する上に、総合協調的な政策体系により工業化を主体として農業及び第三次産業にまで波及する全面振興である。
②東北振興で全国安定を図る戦略
冷戦時代において、東北地区は中国国防の東と北の玄関で、国家軍事安全の戦略的な緩衝地帯であり、代替のできない国境が存在した。2003年に端を発した今度の旧工業基地の振興策は経済の持続発展を視野に入れ、「東北が衰微すれば全国は危うくなり、東北が振興すれば全国は安定する」という戦略的な見地から、東北地区の新型工業化及び振興を全面的なゆとりある社会建設と調和の取れた社会構築に結びつけ、東北振興に新たな地域発展という時代の要請があった。言い換えれば、以前の何回の中央からのバックアップと違い、今度の振興の成否は中国経済社会発展の全面振興と地域均衡の達成に繋がる戦略的な選択とも言える。
③対外開放と工業振興の結合
開放で改革・調整・改造・振興を促すという指導方針を堅持し、開放を拡大することを推し進め、東北経済の外向性を高め、体制・機構・企業の改革を促すために、国務院東北振興弁公室が中央の関連委託を受けて東北振興戦略の第一弾を打ち出してから、東北戦略の実施実情に基づいて対外開放の四つの重点を提出した。すなわち、1)開放で改革を促すこと。外国人投資家による東北国有企業の組織変換と改造への参入、外資による国有企業へのM&A及び株式所有を奨励する。どうしても返済できない歴史的な原因による税金債務は規定により国務院の批准で免除される。2)外資利用の質とレベルを高めること。3)地理的優勢を発揮して地域経済の健康的な発展を促すこと。4)雇用を優先的な目標として考えること-である。このような措置によって、対外開放と東北工業振興は統一的に配置されたと言える。
(2)東北地区の周辺国際環境の変化
中央政府が2003年の中国共産党16回代表大会の報告で初めて旧工業基地振興戦略を提出してから2006年9月まで、調整と改造の推進、対外開放の深化によって、東北地区が臨まれた周辺国際環境は大きな変化を呈した。まず、中国の綜合国力が著しく増強したことである。GDPはすでに世界四位に昇り、貿易総額も日本を抜き米国とEUに次いでトップ三位に入り、一人あたりGDPが1780ドルで、外貨準備高がもう一兆ドル超で、中国が世界への影響力も次第に高まる。関連データによると、2005年中国経済の世界経済成長への貢献率は29%、貿易成長への貢献率は21%で、2006年はさらに拡大する見通しである。中国経済はすでに経済大国日本を含む景気を牽引する重要動力となり、「中国内需」と言われている。北東アジア地域にある日本、韓国の経済は持続回復中で、特に日本は戦後最長期であった「いざなぎ景気」を超えた成長が続けている。エネルギー価格高騰の牽引でロシアの外貨準備高が大幅増加し、経済も従って8年連続の好調が続いている。モンゴルも北東アジア経済提携の潮流に溶け込み、周辺国との鉱産物を始めの合作が増強している。北朝鮮問題は未解決のままだが中朝、韓朝貿易が拡大している趨勢は余り変わらない。北東アジア地域貿易・投資は世界貿易と投資全体の好調と安定によって記録更新の可能性が強い。国際分業及び中国の分業地位のアップによって中国の「世界工場」の地位がさらに固めていく。消費品の加工、組み立て、輸出が外資に伝統とハイテク関連の技術の中国移転を加速させる。これらは東北地区の更なる開放、北東アジア国際貿易及び投資に溶け込ませる何よりの駆動力であると考えられる。
(3)東北地区の面する国内競争環境
一方、東北地区が直面する国内環境もますます厳しくなりつつある。中央政府が「東北旧工業基地を促進するにあたり対外開放を一層拡大する若干の実施意見」(国務院36号文献)など旧工業基地振興関連の優遇政策を続々打ち出し、東北の対外開放に多方面の政策保障と発展の機会を提供する同時に、早期開放によってすでに豊かになった珠江デルタ、揚子江デルタ、京津翼(北京市・天津市・河北省)環渤海経済地帯の所謂三大経済圏の中国経済への影響力が次第に目立ってきた。特に江浙の民営資本を中心とする内資北上の勢いが注目され、「新東北人」という新集団が登場し始めた。彼らの参入によって東北振興が加速する一方、競争も一層激化することに違いない。また、経済規模では三大経済圏に匹敵しえない東北地区は劣勢に追い込まれる可能性がある。2004年の統計によると、三大経済圏は輸出入額で中国全体の76.6%、外資利用で88.5%を占めた。2006年6月、中央政府が中国北部の経済中心と開放門戸を象徴する「天津濱海新区開発開放戦略」を打ち出したことは、環渤海経済圏を加速させ、北京を輻射し華北を牽引する意図が明らかである。東北地区は貿易・投資・服務・資本・人材などの面において機会に恵まれる同時に、地域競争の激しい南方各省の豊かな資本の挑戦を受けざるを得ないだけでなく、環渤海経済地帯の拡大に吸収され、或いは疎外化に押しやられる可能性もないとは言えない。また、2001年末の中国WTO加盟の受諾によって、2005年から中国はサービス業の更なる開放と新規参入許可の緩和を実施しなければならなくなった。第三次産業が普遍的に弱い東北地区にとってはリスクが優勢を下回るとはいえなくなった。そのほか、経済や生活レベルの格差による人材戦略・競争で、北部の人材が南方へ移動する“燕南飛”(南方の省へ就職すること)現象に歯止めがかからない状況にある。東北地区の人材優勢が南方の豊かな省からの争奪戦によって弱まっていく可能性が大きい。
2. 東北の優位性と対外開放現状
東北地区 は北東アジアの中心に位置し、東、北、西においてそれぞれ北朝鮮、ロシア、モンゴルと隣接する。日本海を隔てて日本と韓国を臨み、南は渤海湾を介して首都圏と華北と連なる。当該地域は主に遼寧省、吉林省、黒龍江省を含み、総面積が78.9万平方キロメートル、人口が10,757万で、それぞれ全国の8.2%と8.22%を占める。東北三省の地理的な優勢は顕著で、遼寧省は東北、華北、華東という三大経済地帯の結合部に位置し、北東アジア経済圏の中核的な存在である。また、東北重工業地帯と環渤海経済圏の交錯点にあり、当該地域の最初に開放された優勢を加え、東北開放の門戸と言える。吉林省は東北地区の中部に位置し、陸地的に北朝鮮、ロシア、モンゴルに隣接し、交通が便利で、インフラ整備も良好であり、周辺への輻射能力が強い。黒龍江省は対ロシア国境が3,000キロに及び、25の国家一級税関を持っている。日韓両国との江海連運の便宜だけでなく、シベリア鉄道へ繋がる優位性もある(表1)。
国内ないし北東アジアにおける地理的な優位性はもちろんのこと、資源面の優勢も目立っている。東北地区は資源が豊富で、開発の歴史が短いというメリットがある。統計によると、現在、東北地区の原油産量が全国の40%、木材が50%、汽車生産量の四分の一を占めてある。該当地域の重工業と農業が発達し、建国して以来前世紀の80年代までに、経済成長は同期全国平均レベルをずっと上回って、中国の重要鉄鋼、化学工業、エネルギー、機械、林業及び食料の基地である。三省の綜合科学技術レベルはそれぞれ全国の六位(遼寧省)、十二位(吉林省)、十三位(黒龍江省)であった。上述の資源及び綜合工業体系は東北地区振興及び勢い良く立ち上がりの基礎である。同時に、該当地域は中国が北東アジア国際合作へ参入する拠点で、北東アジアと欧州を繋ぐ重要な輸送ルートと窓口である。東北地区の対外開放と経済の順調発展ができるかどうかは中国経済全体の持続発展、資源安全、地域バランスに関わって、重工業と化学工業を土台とする現代化の実現にも代替のできない役割を持っていると言える。東北振興促進策と更なる対外開放の打ち出し、また「五点一線開放戦略」、「哈大斉工業ベルト開発戦略」、「東北アジア経済貿易博覧会」など各省の独自の戦略によって、東北地区の地縁優勢、資源メリット及びポテンシャルが次第に現われると待望できる。

(1)優位性の特徴と経済発展
東北地区は資源が豊かで、環境に優れ、都市が集中し、交通が発達し、知的な資源が多いという優位性を持っている。長年にわたり、全国の重要な工業・農業基地、対外貿易の基地、科学研究教育の基地である。北東アジアの中心に位置する戦略的・地理的な優位性を除いて考えれば、その経済発展の基礎はほとんど「第一次五カ年計画」とそれ以後の長い間の計画経済と密接な関係を持っている。すなわち、長期的な計画経済の影響で、東北地区は農業の栽培業、工業の重化学工業を特徴とする地域経済構造を形成した。このような工業基地が集まる産業構造は計画経済時代の一時的な輝きを浴びた後、改革開放の初期と中期で開放に見捨てられた出遅れと「東北現象」の衝撃を受けた。1978年の改革開放によって東北地区の経済はある程度発展したが、東南沿海各省との距離が大きくなったと言える。体制的、制度的、構造的な計画経済の後遺症が次第に現われ、旧工業基地も市場経済の壁にぶつかり次第にその優勢を失い、効率の低下、企業の生産停止、レイオフ、一時休職、資源の枯渇、環境悪化などに象徴される「東北現象」と、農業の効率低下、収入増の停滞、農村発展の疲弊などを代表する「新東北現象」が東北地区を覆った。地区全体経済も一時マイナス成長に陥り、中国経済転換期の負の代表地域となった。
1984年、中国政府による大連を含む14の沿海地域都市の開放に従って、東北地区も閉鎖的な計画経済の束縛から開放的な経済への転換を模索し始めた。1988年、遼東半島の開放、沈大高速道路の開通によって周辺2,000万人の開放商業圏が形成された。1992年の鄧小平氏の「南巡講話」によって琿春、綏芬河、黒河が相次ぎ開放された。東北地区は当初は大連がリードし、省都都市を拠点として辺境税関都市を控えた全面開放局面を形成する地区経済構成も生まれた。この2~3年、東北振興策と全面開放に関する好材料の影響で外資・内資とも北上の趨勢を形成し、渤海湾の海洋出口やロシア・北朝鮮への陸上隣接優勢を利用した北東アジア諸国との貿易・投資などの対外発展と更なる開放の起爆剤となっている。GDPの増加もその現われの一つである。2005年、東北地区のGDP総額は17,140.7億元で、同期中国全体183,084.8億元の9.4%を占め、1980年代後期の隆盛期の13.3%より後退したが、質の改善、開放の効果が充分あると考えられる(表2)。

(2)東北地区対外貿易現状
東北地区の対外貿易は国家物資調達の指令貿易と沿海、国境開放から始まった。改革開放の深化によって、東北地区と国際間の経済往来も多くなり、貿易額も次第に増加しつつある。1978年、東北地区の輸出入総額は僅か16.77億ドルで、その内、輸出が15.94億ドル、輸入が0.83億ドル、輸出の大半も原油と製品油で、標準に達する地方商品はほとんどなかった。1987年の輸出入総額は58.19億ドルで、その内、輸出が50.68億ドル、輸入が7.52億ドルで、輸出と輸入はそれぞれ1978年の3.18倍と9.1倍であった。2004年の東北地区の輸出入総額は479.9億ドルとなり、その内、輸出が243.1億ドル、輸入が236.8億ドルで、それぞれ1987年の4.8倍と31.5倍であった。2005年の輸出入総額は継続拡大し、571.11億ドルとなった(表3)。
一連の数字変化を見ると、東北地区の対外貿易ウェイトは山西など西部各省と一部中部省より高いが、東南沿海各省と比べまだ低い。貿易パートナーを見ると、東北地区はすでに世界160余りの国や地域と貿易関係を結んだが、大部分が香港、日本、韓国、米国、台湾などの国や地区と取引されている。三省の間にも貿易総額の差異、輸出入のアンバランス現象がある(表4-1、4-2)。
(3)東北地区外資誘致現状
東北地区の外資利用と技術導入は改革開放初期の1979年からスタートし、当時はプロジェクトの導入、補償貿易、輸入品の組み立てを中心にして、次第に技術の合作、セットプラント輸入、重要設備の輸入に転換した。外資利用も当初の外資からの借款から外資との提携へ次第に転換したのである。
1979年から1987年にかけて、東北地区の外資利用は1,116件で、契約ベースで24.5億ドル、実行ベースで8.53億ドルであった。1990年代以後、中国全体の投資環境の改善やインフラ整備、関連法律の完備によって、合弁と合作を主な形態とする外資の進出は独資へと変わり、大量進出のきっかけともなった。東北地区の対外貿易が主に日本、韓国、米国、ロシアなどに集中していると同様に、同諸国からの直接投資も東北外資利用の重要な柱となっている。例を挙げると、日本は遼寧省の第一の貿易パートナーと第二の投資国である。遼寧省に進出した日系企業の生産総額は320億元で、地元に14万件の雇用機会を創造した。日本の著名企業のほとんどがさまざまな形態で大連に進出している。同時に、日本は吉林省の第一の輸出相手国と第二の輸入相手国であり、外資利用の重要投資国である。日本は黒龍江省の第二の輸出相手国で、第五の投資国である。2005年、東北地区における実行ベースでの外資利用総額は46.82億ドルで、2005年末までに東北地区外資利用累計総額は425.93億ドル、全国の6.7%を占めた。三省の中で外資利用が最も多いのは遼寧省である。
2005年、遼寧省の外資利用総額は35.9億ドル、前年比172.7%と大幅に増加した。その内、1,000万ドル以上投入の項目は357件で、契約ベース総額が77.16億ドルである。分野別に見ると、製造業、不動産、情報通信などが多く、全体の85.2%を占めている。2005年末までに遼寧省の外資利用累計総額は382.3億ドル、東北地区外資誘致総額の79.3%を占め、遼寧省は当該地域の中枢省として重要な地位と早期開放された成果を表した(表5)。
黒龍江省の外資利用は香港、韓国、米国からのウェイトが高い。1998年から2004年にかけての累計外資利用で見ると、この三国の投資割合はそれぞれ37.41%、10.53%、9.21%で合計57.15%である。2005年、黒龍江省の外資利用は4.31億ドルで、前年比10.47%増であり、新規外国投資企業を266件認可し、投資国は香港、韓国、米国の次にヴァージン諸島、日本、ロシアであった。
1997年から2004年にかけて、吉林省の外資投資分野は主に交通運輸設備製造業、電気・ディーゼル及び水処理、食品製造業であり、特に自動車産業への投資と輸入は吉林省における旧工業基地の資源と産業優勢を反映している。2005年、吉林省の外資利用総額は6.6億ドルで、前年比46.1%増であった。新規外国企業を348件認可し、投資国は24の国と地区に達し、その内、1,000万ドルの投資国と地区は9に達した。ドイツ、米国、香港、韓国、ヴァージン諸島、日本の順であった。
(4)東北地区対外投資現状
早期開放に恵まれた東南沿海各省及び京津沪(北京・天津・上海)と比べて、特に中国対外投資総額の10分の1を占める上海と比べて、東北地区の対外投資の初動は遅れた。国家の「走出去」戦略及び奨励政策を打ち出した1999年までに、それらしい対外投資はほとんどなかった。近年、東北振興戦略の深化、東北地区対外開放のレベルアップによって、当該地域の経済は高度成長が続き、対外投資も出始めた。発達している他省のコスト削減と技術獲得のための対外投資と比べ、東北地区の対外投資は資源の獲得を狙っており、投資の大半は周辺にある発展途上国或いは資源の豊かな国・地域に集中している(表6)。
2000年に入ると、東北地区の対外投資は年々増加の趨勢を呈し、遼寧省がその趨勢をリードしているが、黒龍江省の対外投資も著しく増加し、2005年の投資額は遼寧省を大幅に超える記録的な年となった。2005年の東北地区の対外投資を見ると、投資件数では遼寧省が多く、他の2省の合計を上回る48件であったが、金額は9,316万ドルで、黒龍江省の2.37億ドルに及ばなかった。2005年の遼寧省の対外投資先は主に米国、香港、ロシア、日本、韓国、北朝鮮及びモンゴルで、技術特許、国際販路、資源確保の意図が目立っている。
吉林省の対外投資は主にロシア、北朝鮮、アフリカ、バングラデシュなどに集中し、先進国への投資はフランスと香港、マカオに集まっている。2005年の対外投資件数は23件で、中国側の直接投資額は3,340万ドルであった。近年の代表的な対外投資事例としては、ロシアの不動産、木材、運輸業への金龍有限責任公司、吉林新元木業株式有限公司、吉林盛銘実業有限公司、吉林宇別爾運輸集団公司などが有名である。そのほか、北朝鮮も吉林省の主要投資先である。
黒龍江省の対外投資は主にロシア、モンゴル、ボツワナ、香港、米国などに集中している。1998年から2005年にかけての累計海外投資額は7.2億ドルで、海外設立企業数が231社、投資先が39カ国であった。中でも、対ロシア投資は黒龍江省の重点とも言える。2005年末までにロシアに進出している黒龍江省の企業数は110社で、契約ベース投資額が2.7億ドル、実行ベースでも2億ドル以上と推計でき、全体の27.8%を占めている。特にエネルギー、鉱産物開発、木材加工などの規模が大きい。代表的な投資は、黒龍江省龍興国際資源開発集団有限公司の鉱産物中心の開発、黒龍江振戌・斯達実業有限公司の木材パルプ開発などである。対ロシア以外に、黒龍江華福実業有限公司がモンゴルで創設するモンゴルチュウバオン実業有限公司、黒龍江省国際公司が北京首都鉱業有限公司と提携して創設する図木爾泰鉄鉱石有限公司など、黒龍江省の製造業を支える資源の確保のための対外投資形態が注目される。

3. 東北振興の推進と対外開放展望
東北振興戦略の提出は、旧工業基地の資源枯渇による転換・構造調整を進める一方、最も重要なことは、調整と改造によって国家政策の効果、及び東北地区の持っている産業、資源、科学技術、労働力及び地理的優勢を発揮させ、科学発展観を樹立し、旧工業基地の開放レベルを高めることである。世界は経済のブロック化、地域化、国際経済一体化の趨勢にあり、対外開放は開放型経済の発展を促進し、産業構造を高め、国内外の資源を合理的に配置し、企業の外向化レベルを高め、国際競争力を増強させる鍵である。東北振興は単に資金を動員して投資環境を改善し、設備を更新させることにとどまらず、工業を主導とする社会全般にわたる大きな変革である。その変革の動力は対外開放であり、それによって国外の資金と優れた技術、人材、管理経験を導入し、社会全体の開放を引き出す。今度の東北振興にとっては対外開放が根本であり、国策である。経済成長の方式の転換、対外貿易増長パターンの変更、外資誘致の増強、実力のある企業の対外投資などはいずれも東北振興、特に対外開放に頼るものである。これは国家が東北振興を断固として実行する真意でもある。
現在、東北アジア地域協力、特に辺境地域の合作を強化する環日本海の地方自治体による会議が各種開催され、図們江地域開発をめぐって中・ロ・朝が前向きの姿勢を示し、東寧からウスリースクへの鉄道・航運建設も着実に進んでいる。「辺境経済合作区」、「中ロ互市貿易区」、「輸出加工区」のいわゆる三区優遇政策の国家レベル税関である琿春とロシア・ハサン、北朝鮮・羅津、清津の間に展開する国境を跨る開発区の建設は、吉林省の海とつながる夢が実現しようという段階を迎える。東北東部を貫き遼寧省・丹東まで通じる新規鉄道計画は東北辺境地帯の貿易を周辺諸国へ拡大させ、新たな物流輸送ルートが生まれる。黒龍江省は中央政府から人民元の境外投資金融試験的工作の優遇を得た上に「内引外連」すなわち国内・国外の二つの市場を利用する優勢によって、さらに内外の企業家を集め、東北地区における全体的な対外開放の潜在力が顕在化しつつある。

(1)東北振興と対外貿易レベルの向上
東北地区の2006年1~11月の工業統計と1~9月及び1~11月の対外貿易統計を見ると、東北旧工業基地関連項目の実施及び第十一次五カ年規画スタートの波に乗って、対外開放が牽引する三省の経済は安定且つ高成長を呈している。1~11月、三省の経済規模は継続拡大し成長も加速している。その内、遼寧省の一定規模工業企業の工業増加額は3,559.81億元、前年同期比19.2%増であった。吉林省の一定規模工業企業の工業増加額は1,278億元、前年同期比18.6%増で、平均毎月16.8億元の利益を上げた。黒龍江省の一定規模工業企業の工業増加値は2,352.1億元、前年同期比15.1%増であった。
工業の好調は対外貿易の好況を促し、2006年1~3月、東北地区輸出入総額は140億ドルで、それぞれ前年同期比7.9%(遼寧)、7.9%(吉林)、37.4%(黒龍江省)増を遂げた。2006年1~11月では、東北三省は625.6億ドルの輸出入を達成し、同期中国全体の3.9%を占めた(表7)。この間、遼寧省の輸出入総額は434.1億ドルで、前年同期比16.8増であった。その内、輸出が253.9億ドル、輸入が180.2億ドルで、それぞれ20.3%、12.3%増を記録した。国有企業の輸出額70.5億ドルに対して私営企業の輸出額が38.4億ドル、39.4%増で目立っている。日本、韓国、米国への輸出は130億ドルで、全体の51.5%を占めた。省の主要都市である大連の輸出額は156億ドルで、全体の61.4%を占めた。
2006年1~9月、吉林省は輸出入額58.74億ドル、前年同期比21.6%増であった。その内、輸出は20.31億ドルで前年同期比7.3%増、輸入が38.43億ドルで30.9%増であった。吉林省の輸入が輸出を上回る原因は自動車部品の継続増加にある。1~9月、自動車関連部品の輸入額は10.9億ドルで、吉林省の輸入全体の28.4%を占め、吉林省の自動車産業が全体経済を牽引する役割が明らかである。
2006年1~3月、黒龍江省の輸出入総額は25.8億ドルで史上最高を記録し、同期増加幅は全国トップであった。1~11月、黒龍江省の対外貿易はさらに拡大して118.2億ドルを完成し、初めて100億ドルの大台を超え、中国11番目の対外貿易100億ドル超の省となった。その内、対ロシア貿易が60.92億ドルと全体の51.6%を占める。綏芬河、東寧、黒河などの市と県の財政収入の80%以上が対ロシア貿易に依存している。その他、自動車と機械・電気製品の輸出が全体の増加を支えている。

(2)対外開放と外資誘致の質の向上
中国中央政府は東北の重工業化を重視し、開発によって当該地域の国有企業を活性化させ、資源の合理的な開発を図っている。そのために打ち出した一連の優遇政策は、外資の東北進出により良い条件を与えている。2006年に入ると、旧工業基地改造項目の実施と新五カ年規画の発足などの好材料により、東北地区の外資誘致状況は著しく変化し、新たな局面を迎えている。三省は大プロジェクトと戦略的投資者の誘致を突破口として、外資利用の規模と質を高めることに力を入れている。現存の工業パークと開発区によって外資誘致の拡大を狙う一方、東北地区、特に各省の特色と基幹産業に着目し、それぞれ自らの省にふさわしい外資誘致の新戦略を打ち出した(表8)。
遼寧省は、2008年北京オリンピックと2010年上海万国博覧会の前哨と言われる「世界園芸博覧会」(2006年5~10月、瀋陽)を積極的に利用して、半年の開催期間で1,000万人の入場者を実現し、観光による外資誘致への波及効果を果たした。また、国務院の支持を得て「五点一線」という最新の沿海開放戦略を発表した。これは、揚子江以北最大の島である大連長興島を中核として、渤海湾沿岸の営口、錦州湾の葫芦島、丹東、庄河花園口を連ね一線となる。この戦略の発表は欧米、日本などの投資者の目を引き寄せ、遼寧省の外資誘致の新たな目玉となっている。また、「遼寧省人民政府が沿海重点発展地域をさらに開放拡大させることに関する若干意見」という省レベルの奨励策を出し、外向発展と沿海・内地の相互促進に関連する5方面・12項目の具体的な優遇政策を発表した。それらによって、この1年足らずの間に、「五点一線」地域ではすでに外国投資企業18件を認可し、契約ベースで1.9億ドル、商談中の項目は186件に上った。2006年1~11月、遼寧省は新規外国投資企業を2,021件認可し、外資誘致総額は50.24億ドル、前年同期比111.84%増であった。
吉林省は海への出口が無い不利な現実の中で意欲的にロシア、北朝鮮と協商し、日本と韓国の資金及び技術を利用し、図們江地域開発のメリットをアピールしている。図們江周辺はすでに日本・韓国投資家の対象地区となり、小島衣料を始め外資の進入が加速している。また吉林省は一年に一度の「東北アジア経済貿易博覧会」を利用して、外資誘致に最大限の力を入れている。2006年1~11月、吉林省の外資誘致の実行ベース総額は14.5億ドルで、前年同期比42%増であった。契約ベースの項目の中には1,000万ドル超の大項目が36件で、前年のほぼ2倍となった。自動車、トウモロコシ加工などの伝統的な投資分野のほか、エネルギー、新型材料生産、不動産、医薬への外資進入が注目される。
黒龍江省は多方面の資本を誘致し、国有企業改造などへ参入させている。中央政府による旧工業基地への優遇を活用して、各種投資家が原則的に負債を切り離し純資産だけを買収できる規定を発表した。これは、2004年11月に黒龍江省が提出した「哈大斉工業回廊」という省レベルの総合開発戦略と合わせ、黒龍江省の外資誘致の目玉となっている。2006年1~3月、黒龍江省の実際外資利用は2.24億ドルで、同期比18.5%増であった。黒龍江省への投資上位5国は香港、ヴァージン諸島、オランダ、米国、バルバドスである。

(3)東北振興及びさらなる開放における問題点
東北地区は改革開放の千載一遇のプラス期を迎えているが、マイナス要因も幾つか残っていると考えられる。まず、東北地区は北東アジアの中心に位置し、発展の潜在力を持っているが、当該地域の周辺に存在する非調和要因も無視できない。特に遼寧と吉林省が北朝鮮と隣接しており、朝鮮半島の不安定による東北振興、特にさらなる開放策の実施にマイナス影響が避けられない。
また、当該地域の冷戦後遺症として二国間或いは多国間に残っている歴史認識の相違と領土問題、経済合作とエネルギー争奪の関係、経済利益と文化差異の関係などは、北東アジア経済一体化の妨げになり、東北地区のさらなる開放への障害とも言える。
GDPから見ると確かに著しく成長してきたが、南方の発達地域と比べてまだ一定の距離がある。2000年以後の東北地区の平均GDP成長率11.9%に対して、同期の中国平均は13%、沿海地域はさらに高く16.4%に上る地域もある。東北振興は束の間の機会であり、いかに振興を持続することができるか疑問もある。また、対外開放の外向化レベルで見ると、東北地区は、ますます一体化を強める他の地域と相当の距離があることは否めない。2005年の東北地区の輸出入総額は571億ドルを完成したが、珠江デルタは4,280億ドル、揚子江デルタは5,217億ドルであった。環渤海経済地帯も東北地区を大幅上回ると推定できる。
意識の開放改革も行わなければならない。改革・開放以来の東北地区の発展を見ると、著しい変化・業績と同時に、観念的な面での更新は南方諸省と比べられないところがある。例えば、グローバル経済と地域経済の一体化時代において、一個の省の力で各種産業が揃った産業構造を形成することは難しく、複雑な国際競争に充分に対応できない。三省各自の優勢を発揮させる同時に、大きく東北地区という観念を樹立することが必要である。東北にとって最大の優勢は、提携による発展の道を選ぶことであり、地域産業配置と経済一体化の選択である。それを実現するため、五カ年計画、十年計画を策定するときには、当該地域の総合的産業配置と資源および加工の協調優勢を確立しなければならない。東北経済区の早期形成は、三省優勢を最大限発揮し、将来の北東アジア経済圏の国際競争に対応する最も良い方式でもある。同時に、振興と対外開放、資源の合理的利用と開発、外資の投資コスト削除などもキーワードである。
外資誘致において、適当なビジネスパートナーが見つからないことがしばしば問題となる。保守的な観念、国有企業の比重の高さ、企業所有制の不明確、買収負担の重さなどに面して、外資がまず考えるのは投資のコストと回収の問題である。この点から、東北地区の外資誘致は国有企業を改造する同時に、川上と川下の民営企業を育成することが肝心である。66,000余りの会員を擁する韓国貿易センターは2006年8月に専門の調査報告書を出し、韓国企業の東北進出に警告を発した。報告は、東北地区の中核都市の未成熟、不十分な地域ネット、競争意識に欠け、企業の成長環境に劣り、技術革新能力が低いことなどを指摘し、東北地区が珠江デルタ、揚子江デルタ、環渤海地域のような第四の成長極になることは疑問であり、時間がかかるという結論を出した。この報告は韓国企業の東北地区への進出を阻止するものではないが、東北地区の外資誘致上克服しなければならない側面を警鐘して参考になる。
また、瀋陽、大連、ハルビン、長春など東北地区の中核都市とアジア主要都市との投資コストを比較すると、東北地区の振興深化とさらなる開放により、賃金など各種コストが上がる傾向が出始め、外資進出の障害の一つとなる。この2、3年の外資の動きを見ると、賃金など投資コストの上昇によって、より安いベトナム、フィリピンなどへ外資が移転する動きが出始めた。これは東北振興、東北地区外資誘致にとって新しいマイナス要因である。
最後に、2007年に入ると環境問題と省エネ対策が中国全体として臨まなければならない問題となり、東北地区は中国最初の工業基地としての過去の優勢と裏腹な設備の老朽化とエネルギーの非効率に挑戦しなければならない。東北振興及びさらなる開放の実施過程で、外資誘致によって企業、特に国有企業の技術的な改造とレベルアップを促進できるか、いかにして環境改善と省エネを実現するかが重要な課題である(原文は[ERINA REPORT]2007vol.74掲載)。
注:フォーマット制限のため、文中の表データなどは略された。
参考文献:
「中国商務年鑑」1999年~2006年
「中国統計年鑑」1999年~2006年
「遼寧省統計年鑑」2006年
「吉林省統計年鑑」2006年
「黒龍江省統計年鑑」2006年
中華人民共和国商務部ウェッブサイト
中華人民共和国統計局ウェッブサイト
東北三省人民政府商務庁ウェッブサイト
衣保中等「中国東北地域経済」(吉林大学出版社)
陳才等「東北老工業基地新型工業化之路」(東北師範大学出版社)